Thanks

□Blue Rose
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青いバラ Blue Rose
それは不可能の代名詞

しかし――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


数日前から綻び始めた花弁が風に煽られ舞っている。
薄紅の花吹雪の中を2人の女生徒が目当ての人物の姿を見つけて走り寄った。

「いたいた。美咲〜っ」

「美咲さん」

「さくら、しず子」

笑顔で近付いてくる2人に、振り向いた美咲もまた笑顔で応える。

「美咲、これ私たちからv」

はい、とさくらが両手を差し出して渡してきたそれは、四角いガラスの容器に飾られたフラワーアレンジメントだった。
白を基調にして淡い桃色がグラデーションになるように、数種類の小振りな花が使われていて、その中央にはやや大きめの一輪のバラが配置されている。
そのバラは一般的によくみられる赤いものではではなく、真っ青なもの。

「美咲のイメージで作ったんだよ〜v 今までのお礼v」

「お礼って…」

「ずっと頑張ってきてくれていたじゃないですか。だから感謝の気持ちです。美咲さんに感謝している人は大勢いますよ」

しず子は美咲の両手にあるものを指差しながら「それが証拠でしょう?」と続けた。
美咲の両手には抱えきれないほどに、色とりどりの花束やラッピングされたプレゼントが収まっている。
送り主のほとんどは同じ卒業生である同級生の女子からだった。

美咲が生徒会長になってから学校が過ごしやすくなったと、女子全員が思っている。
でもそれは女子だけに限ったことではなく、男子にもいえることでもあった。
鬼会長と恐れられていても、その実績を認めていた男子もいたことは後期選挙の時に明らかになり、美咲自身信じられなかったこともある。

「実はこのアレンジメントも、私たち2人からというわけではないんですよ」

「え?」

「華道部に依頼がきたんです。卒業式に美咲さんに渡してほしいという連名の手紙が」

「見るからに男子って感じの文字だったよ! 代表者は“鮎沢塾塾生”って書いてあったんだけど…知ってる?」

「あぁ…あいつらか…」

美咲の脳裏に数人の男子生徒の顔が浮かぶ。困ったこともあったが、美咲を恐れず逆に慕ってきた連中に思わず笑みが零れる。

「――…良かったね」

美咲の表情を見てさくらも嬉し気に言った。
さくらは美咲が、ずっと努力してずっと奮闘してきたことを知っている。
そして、格好よくて頼りになって強くもある美咲に可愛い部分もあることを知った。
大好きな親友がより身近に感じられて、だからこそさくらも自分のことのように嬉しいと思う。
そんなさくらの心情を理解しているかのように、美咲はさくらに向かって笑顔を返した。

「それにしてもすごいな、これ。青いバラなんてないんじゃなかったか?」

「プリザーブドフラワーというんです。生花に近いドライフラワーみたいなものですね。正確には違いますけれど」

「着色ができるんだよ。だから青バラなんていうのもあるんだ〜」

「美咲さんに渡すなら絶対に使いたいってさくらさんが言うので、それをメインにアレンジメントしてみたんです」

「だって青バラって美咲ってイメージがするんだもん! 華やかで凛としててっ!」

「そ、そうか…?」

瞳をキラキラさせて喋るさくらの台詞に美咲は若干戸惑ったが、2人の気持ちが嬉しいことに変わりはなく素直に受け取った。

「…ありがとな」

美咲のはにかんだ笑顔に周りが騒めく。
しかしその騒めきは段々と遠ざかり、さらには、強く吹いた風に煽られた花びらが視界を遮った。
次の瞬間見えたのは自室の天井。
状況が判らなくて暫らく茫然としていたが、理解するのと同時に身体を起こした。

「夢か…」

懐かしい夢をみたな…と美咲は夢の内容を思い出して呟く。
 

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