Thanks

□コトバもなく
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朝から雲一つない晴天に恵まれた、小春日和だった1日。陽が落ち始めた今も気温はまだ暖かさを保っていた。
とは言うものの、屋上という場所では容赦のない風によってその温度は奪われていく。

そんないつもの場所に座った彼は、景色を眺めるともなく眺めていた。
私が来たことに気付いているだろうけれど振り向きはしない。
拒否というより拗ねていることが判っていたので内心溜め息をついた。

それでも、大きいはずの彼の背中が何故か小さく見えて、微かに胸が締め付けられる。
ゆっくり近づいて、いつも彼がするように背後から抱きついた。

ごめん

言葉にすることができなくて、彼の肩に顔を埋める。
風に乗って甘い香りが鼻先を掠めた。
彼が舐めている飴の匂いだと思い至り、裏付けるようにガリッと噛み砕く音が聞こえる。
彼は私の手に自分の手を重ねると、ぎゅっと強く握ってきた。

ありがとう

想いを伝えるように彼の身体に回した腕に力を籠めて抱き締める。
彼が首をこちらに向けたかと思った途端腕を引かれ、気付けば彼の膝上に納まっていた。
暖をとるように抱き合い静かに唇を重ねる。
口移しで渡された飴の欠片が、互いの口内で溶けて消えた。

それは、無言のまま交わす仲直りの証。


end.(2009.11.19)

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