Thanks
□残る熱
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あいにくの朝からの曇り空。お陰で夏の名残の暑さはなりを潜め次の季節が近いことを感じさせる。
いつものように屋上に上がり、何をするともなく眼下の景色を眺めた。もう何年も前からこんな風に街を見ているけれど、それに特に意味はない。ただ1人になれて時間が潰せればいいだけのこと。それは今も変わらない。
ただし。変わったことがひとつ。
それは彼女の存在。今は彼女の仕事が終わるまでの時間潰し。ほんの僅かな時間なのに1分1秒までもが長く感じられて、どれだけ焦がれているのかと苦笑した。
でもそれは俺だけじゃなくてきっと彼女も同じ。やがてやってきた彼女の俺を捕らえる眼差しの奥に見えるものは間違いようもなく同じモノ。
「…今日はこの後何もないんだよね?」
控えめな肯定の返事に彼女の腕を取り引き寄せて口付けた。
触れ合うだけのものから段々と深いものになっていくキスにやっぱりと確信する。
真夏のような熱量は胸の奥勢いも衰えず在り続け互いの身を焼いていった。
end.(2009.09.13)