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□言ノ葉呪縛
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最初はただの暇つぶしだった。

学校では女子を背にして男子を相手に怒鳴りつけてる姿しか見たことがなくて。
俺も何度か「女子を泣かせるな! 今度泣かせたらただじゃおかないからなっ」と理不尽なことを言われていたっけ。
それなのにバイトでメイドなんてやっているって知って、面白い奴だと思った。

真面目で正義感が強くて意地っ張り。
でも己の非を認める柔軟さもあって。
いつもなんにでも真っ直ぐで、とにかく全力投球のくせに自爆して空回ってる姿が危なっかしくて放っておけなくて…見ていて飽きなかった。

それが。

いつからだったろう。
遠くから見ているだけということに物足りなさを感じてきて…ずっと傍に、近くに居たいと思うようになった。
隣に並ぶのが当たり前のようになった頃にはその存在を手に入れたくて。
この手に捕えて、できることなら閉じ込めてしまいたいと…願った。

何かに執着したのなんて初めてで。どうやったら手に入れられるか、本当は手探り状態。

無理もないだろう?
なにしろ俺の予想を遥かに上回ることを平気でしでかす相手なんだから。
だから確実に手中にするために、コトバに宿るチカラを使って繰り返し彼女に囁き続けてみる。

「好きだよ…鮎沢」

彼女はちゃんと耳を傾けてくれるから。
じわりじわりと効き目を顕わす言ノ葉のチカラで君を捕らえよう。

「好きだよ」

繰り返し囁く言葉を聞き流せなくなったら…俺の勝ち。
言霊の鎖で絡めとって。
逃げ道なんて全てなくして捕まえてあげる。

そうしたら次は――…

俺がずっと聞きたいと望んでいる君の言ノ葉で…俺を捕らえ続けてくれるよね?


end.(2010.09.13)

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