Novel

□Luminesce
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それに気が付いたのは丁度公園を半分まできたときだった。子供用の遊具があるような公園とは違い、ここの公園は“できるだけ自然のカタチを残すように”整備されたもので、雑多な樹や小さな池、小川などがある。自然公園とでも言えばいいだろうか。場所によっては樹が鬱蒼としていて、外灯の明かりが届きにくい所もある。
そんな場所。
小さなほの白い光がふうわりと動いていた。
タバコの火? 違う。タバコなら…人ならあんな動き方はしない。しかも徐々に数が増している。
―見たんだって―
―だから人魂!―
先程の言葉が頭をよぎる。ゾクリと背筋が震えて、思わず碓氷の腕にしがみつく。

「わお。会長ってば大胆ーv」

軽口を叩いた碓氷だったが、あからさまに震えてしがみついている私を見て、空いている方の手でまた優しく背中を叩いた。

「どうかした?」
「っ…ひ、光…が…っ」

自分でも信じられないほど弱々しい声。碓氷が周りを見渡しているのが気配で分かる。そしてすぐに、あぁと呟くと私を腕にしがみつかせたまま歩き出した。私は俯いたままできるだけ何も見ないようにしていたが、

「鮎沢。大丈夫だから見てみなよ」

からかう訳ではない、柔らかな声音で言われて、恐る恐る顔をあげた先で見たものは、無数の。

「――蛍…?」

明滅しながら飛び交う光。
その青白い光は冷たいものではなく、命ともる温かなもの。

「すごい…でも…何でこんな場所で…?」
「そー言えば、どっかの小学校がどっかの公園で“ホタルを見よう”って飼育? してるって聞いたことあるけど」
「…あぁ、それなら私も聞いたことがある。この公園だったのか、な?」
「多分そうじゃない?」

しばらくの間幻想的な光の群れに見とれていたが、一匹の蛍が碓氷のシャツに止まるのが目に入り、そこで漸くしがみついたままだったことに気付く。

「! わ、悪いっ」

慌てて手を離して離れると、離れなくていいのにーと残念そうな声が聞こえ、

「こんなに蛍がいるんだよ? 俺達もくっついていなきゃv」

今度は私が抱きつかれた。
どういう理屈だ! と押し退けようとするが碓氷は腕に力を入れて私の動きを封じ込めつつ言い放つ。

「だって蛍が光るのって求愛行動でしょ?――だから…」

耳元で囁かれた声の甘さに心臓が大きく跳ねる。私が怯んだ一瞬の隙を見逃さず、碓氷はくすりと笑うと唇を重ねてきた。

「俺も負けてらんない」

「〜〜っ虫に対抗すんなーっっ」

叫ぶ私を見て碓氷はくすくすと笑い続けた。


end.(2009.07.20)
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