Novel
□別離。そして…(碓氷Ver.)
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2週間。彼女と会わなくなってそれだけの日々が過ぎた。理由は簡単。3年は自由登校になったから。
会おうと思えば会えたけれどできなかった。
数ヶ月前、悩みに悩んで進学という結論を出した鮎沢。
彼女の成績なら推薦だって余裕だったはずなのに、決めた時期が遅かったせいかどうか普通に受験することになっていた。真面目な彼女はバイトのシフトも減らしていたし、邪魔はしたくなかった。
俺自身、引き延ばしていた問題を片付けるのに時間をとられたせいもある。…まだそれも完全には解決していないけれど…
明日になれば会えるのは分かっている。卒業式なんだから。でも。それでも。
ただ無性に逢いたくて。
せめてひと目姿が見たくて、声が…聞きたかった。
――こんなこと、思うなんてな…
フッと苦笑して立ち止まり、まだ数メートル先の彼女の部屋の窓を見上げる。まだ、起きてはいないだろうしな…と考えていたら、玄関のドアが開いて鮎沢が出てきた。
よく見ると、彼女はコートを着てバックを肩にかけていて、明らかに出かける様子だ。
俺は静かに、でも急いで歩いて声をかける。
「出掛けるの?」
こんな早朝に外出なんて、下手したら会えなかったかも? なんて思っていると
「…お前こそこんな朝早くから…何の用だ…?」
少し不機嫌な声色で俺の方を見ずに彼女が答える。そんな声が聞きたいんじゃない。こっちを向いて…。想いを込めて目的を伝える。
「鮎沢に逢いたくて」
呆れて、溜め息をつきながらだったけれどやっと俺を見てくれた。
「今日……時間、あるか? あるのなら…少し付き合え」
いつもと違う彼女の様子に内心疑問をもったが、せっかくの彼女からのお誘い(?)を無駄にする気はない。1日中平気と答えて歩き出した彼女を追った。
電車に乗る前も乗ってからも会話はなく、鮎沢は何を考えているのか、俺がずっと見つめていることにも気が付かない様子で車窓の外を眺めている。問いかけて聞き出してもよかったが、彼女から話してくれるのを待ってみた。
どれくらいたったか、ようやく鮎沢がぽつりと話し始めた。
「先月…いや、もう先々月だな…父親の居場所が判ってな…」
鮎沢の様子が違うのはこのことか…。ということは、父親に会いに行くのだろうか。1人で…?
「――どこ?」
「…ガンセンター。末期患者向けの」
「えっ…?!」
色々思いながら場所を問うと思わぬ返事が返ってきた。驚いて彼女を見ると、鮎沢は窓の外を見たまま表情も変えていなかった。声をかけようとしたら下車駅に着いてしまい、タイミングを失ったまま、先を歩く鮎沢の後を付いていく。
彼女が思い出しながらのように、一言一言、これまでのことを話している。抑揚のない声のまま。
ガンセンター職員からの連絡で、父親が失踪当時から患っていたらしい病が悪化して、意識をなくしていること。連絡先も父親の同僚が捜しだしてくれるまでわからなく、その過程で弁護士に依頼していたのが発覚したらしい。そして鮎沢の母親は、失踪の理由が借金だけではなかったことに気が付いていたようだ、と言う声を、彼女の肩口で揺れる髪を見ながら聞いた。鮎沢は今、どんな表情で話しているのだろう――。
気が付くと緑の多い広い場所に出た。一見して公園のように見えたが、そうではないことがなんとなくわかる。
「結局意識は戻らず…」
1本の樹の横を曲がりながら言った彼女が立ち止まり、続いた俺が見たものは、できたばかりであろう鮎沢家と記された墓石。
「――。今日、四十九日なんだ」
感情の籠もらない声で鮎沢が言う。