宝物

□with you(2010.08.26)
2ページ/2ページ


「いってらっしゃい」と萌えの花を咲かせるさつきさんに見送られ俺達2人はお祭りへと向かった。

「店長…わざわざ用意したらしくて…」

「さすがさつきさんだよね。凄く似合ってる」

さつきさんが用意してくれた浴衣に身を包みいつもとは雰囲気が違う彼女にドキドキした。
普段では着ないような可愛いピンクの浴衣には花や蝶が舞っている。髪もアップにしてユラユラと揺れる髪飾りまで用意してくれたようだ。

「う、碓氷も…似合ってるぞ…」

消えそうな彼女の声にありがとうとお礼を言った。
さつきさんは俺の分まで用意してくれていたのだ。









お祭りはメイド・ラテから少し離れた神社で行われていた。
そういえば手作りのポスターがあちこちに貼ってあったかも…。
このあたりなら学校の奴らにも会わないし大通りからも離れているから店に来る客にも会わないだろう。

「人が多いし…手、繋ごう?」

「お、おう…」

頬を染めながら絡めて繋いだ華奢な手に舞い上がる。何とか冷静を装い人混みを掻き分けた。

途中、りんご飴を買ったりかき氷を買ったり…。
実はお祭りは初めてだった。学校の行事ぐらいしか体験した事がないのだ。
その『初めて』を彼女と過ごせた事がとても嬉しかった。

「碓氷…楽しいか?」

少し不安そうに覗き込む彼女に笑顔で頷くとパァっと表情が明るくなった。

「鮎沢…それズルイ」

何がだよって怒っていたけど本当に可愛すぎてズルイ!


お祭りを楽しんだ後、荷物を取りにメイド・ラテにもう一度戻る。
慣れない浴衣に下駄。
彼女の歩調に合わせてゆっくり歩いた。
カランコロンと心地好い下駄の音を鳴らし俺に手を引かれ歩く彼女は少し俯いていた。

彼女にはまだ秘密。
そう、この手を引く男が隠した下心と独占的…。

まだ浴衣姿を見ていたいからまずは建物の陰に隠れたらキスをしよう。

深く深く―――

彼女に甘い熱を注ぎ込みもう少し一緒に居たくなるように、もっと俺が欲しくなるように…ってズルイ魔法をかけよう。



End
2010.8
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ