宝物

□もっと(2009.09.01)
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いつもなら鍵がかかっている生徒会室だったが彼女が先に開けておいたのだろう。扉を開け一人教室に入る。
いつも彼女が使う机をひとなでして机の端に座って待つ事にした。

外をぼんやり眺めているとパタパタと聞き慣れた足音が近づいて来た。その足音が近づくにつれ胸の鼓動が高鳴る。

口元が緩んでしまうのを隠せるだろうか…。

扉の前で足音が止まり彼女が呼吸を整えているのがわかった。

「ったく…素直じゃないんだから……」

小さく呟いた。
彼女が急いで来てくれた嬉しさと扉の向こうで平静を装う準備をする可愛い姿に笑みがこぼれる。

大きな深呼吸の後、扉が開き真っ赤な顔の美咲が入ってきた。

「もう帰れるの?」

「お、おう…」

俺の問い掛けにいつものように素っ気ない返事で返してきた。

「それじゃあ、帰ろっか。送るよ」

「……」

真っ赤な顔で何か言いたいのか口を開けたり閉じたり…と何度か繰り返している。

「どうしたの、ミサちゃん?」

美咲は少し間をおいてから小さな声で話し始めた。

「…今日はこの後…生徒会もバイトもないし…すぐに帰るつもりで……」

「うん。知ってる」

平気な顔をしたがやっぱり少しの期待があったからそれが外れて胸が痛んだ。

「えっと…そのつもりだったんだが……やっぱり…」

上目遣いで真っ赤になる彼女にどうしても期待が高まる。

「お前が…もしよかったらなんだが…」

「うん…何?」

平静を装い彼女を覗き込む。

「碓氷のとこ行ってもいいか?」

真っ赤になった顔を隠すように彼女が俯いてしまった事に感謝した。
きっと今の俺は嬉しすぎて情けない顔しているかもしれないから。

この嬉しさで緩んだ顔を彼女に見られないようにぎゅっと抱きしめた。

「いいよ。鮎沢ならいつでも大歓迎だから毎日でもいいのに…」

冗談っぽく本音を言う。

もっと一緒に居たいと君が願ってくれるならいつか俺は『もっと』と奥底にある欲を出してもいいのかな……。




End
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