Novel

□Luminesce
1ページ/2ページ


夏休み中の登校日などは、ほとんどの生徒が急いで帰る。夕方に分類される時間帯ともなれば校内に残る生徒は数えるほどだ。日が長くなっているお陰で多少長く居残っていても外はまだ明るさを保ち、静かな室内ではペンを走らせる音だけが響く。
今、生徒会室には自分独りではなく、役員でもないのに居座る男と2人きりだった。

今日はバイトがないため、丁度いいからと一学期中に終わらなかった生徒会の仕事を片付けていた。幸村達ほかの役員が仕事を終えて帰るころに碓氷はやってきて、そのまま机の右端に腰掛けて私の仕事が終わるのを待ち始めた。
はっきり言って邪魔だ。
会長用に多少は大きくなっているとはいえ、大量の書類やら何やらが乗っている机は狭いほど。それなのに碓氷が座ったことでさらに狭くなってしまい、そのことが私の苛立ちを増す。

「邪魔だ。帰れ」

書類に記入しながら吐き捨てるように言った。今まで何度同じことを言っただろう。が、大人しく帰ったためしがない。それならばと相手が口を開く前に次の言葉を続ける。

「帰らないのなら手伝え」

チェック済みの書類を分類するよう手渡し、シッシッと手の動きだけで追い払う。
一瞬驚いたように目を見開いた碓氷は小さく苦笑しつつ了解、と言って幸村の机で書類を分け始めた。


区切りのいいところまで仕事を終えたときには辺りはすでに暗くなっており、思った以上に時間がかかっていたことに気付く。さすがにこんな時間まで付き合わせたことを申し訳なく思い、

「悪かったな、こんな時間まで…そろそろ帰ろう」

声を掛けると、いつの間にか目の前に碓氷が移動していて、机に両手をついて顔を近づけてくる。

「いいよ別に。あっじゃーご褒美ちょー「却下!」…早いよ…」

けちーちょっとくらいいいじゃーん、と文句を続ける碓氷。

「うるさい。元々はお前がさっさと帰っていれば良かったんだ。ほら、早く帰るぞ」

ピシャリと言い切って生徒会室を出る。

「じゃあ鮎沢を家まで送るので我慢するよ」

などとほざきながら碓氷が後に続く。
色々突っ込みたいことはあったが、あえて無視して先を歩いた。



「あれ? 道そっちじゃないよね?」

いつもの曲がり道で曲がることなく進もうとして問われる。

「そっちは工事中でな。迂回しなきゃならないんだ」

遠回りになってしまうことも含め、本当はこちらの道は通りたくなかった。比較的細い路地なうえ、人通りが多いわけではないから。明るいときならともかく夜に進んで通りたくはない。しかし、不本意だが今は1人ではないし、途中の公園を突っ切ってしまえば早いしまだ人もいるだろうから、と自分を納得させた。
緩い右曲がりのカーブの向こう側から、急に数人の話し声が聞こえてきた。その先にある進学塾から出てきた中学生達だろう。すれ違いざまに彼らの会話がもれ聞こえてきた。

「そこの公園で」
「見たんだって」
「何を〜?」
「だから人魂!」
「まじでっ?!」

っ…冗談だろっ?! だらだらと嫌な汗がでてくる。強張った身体を無理やり動かして何とか歩いていると、ポンポン、と背中を優しく叩かれた。
大丈夫。そう言われている気がして僅かながら身体の力が抜ける。
悔しさや気恥ずかしさはあるものの、苦手な事がバレているということは、助かる…かな(こいつがからかってこなければ、だが)とちょっとだけ思った。
さっきの中学生達の言葉を忘れようと、二学期からの生徒会活動なんかをあれこれ考えながら歩く。だから、いつの間にか繋がれた手も気にしないようにした。


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ