宝物
□特別な人(2010.05.31)
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廊下を歩く彼女に駆け寄って強引に山のような書類を取り上げた。女の子が持つ量じゃないよ、全く…。
初めは断っていた彼女も無駄だと思ったのか「勝手にしろッ!」と不機嫌そうに目線を逸らした。
この『不機嫌』の原因は俺らしい。彼女の表情やしぐさでわかる。
けど何かしたっけ…?
今朝、校門で会った時は無かった。『会えて嬉しい』という照れ隠しの蹴りならあったけど。まぁそんな事言ったら「自惚れるな!」と怒鳴られるかもしれないけどね。
だけど昼休みが終わる頃には不機嫌そうだった…。
「おい!碓氷ッ!」
「え?あ、ゴメン…」
考え事をしていたせいで生徒会室を通り過ぎようとしていた。
「ぼーっと考え事しながら歩いたら壁にぶつかるぞ?」
「考え事っていうか…まぁでも今、壁に激突中かも」
「はぁ?何言ってんだ?宇宙人も地球の言葉で会話をしろ!ったく…」
じゃあ、宇宙人にもわかるようにその不機嫌そうな態度の理由を教えて下さい。
なんて言えないけど考えても理由がわからない。何か俺が関係しているんだよな…。
彼女が生徒会室の鍵を開けるまでまた朝から昼休みまでの記憶を辿っていた。
「あ、碓氷君!さっきはありがとう」
声をかけられ振り向くと同じクラスの女子数名の笑顔があった。
「あぁ」
俺は返事をしながら答えに辿り着いた。その答えにおもわず頬が緩んだようだ。彼女達がキャーキャー騒ぎながら去って行った。
「私を手伝うぐらいならああいうか弱い女子をもっと手伝え!」
そう言いながら不機嫌そうに中へ進む彼女の姿が可愛くて可愛くて…。
「な、何ニヤニヤしてやがるッ!」
「だって嬉しいんだもんv」
「この変態宇宙人めッ!また頭ん中覗いたな?」
「不機嫌な理由がヤキモチだったなんてね〜。いつもは女子に優しくしろってうるさいぐらい言うのにねぇ…?」
みるみる顔が赤くなる彼女が可愛くて今すぐ抱きしめてキスしたい。
原因は自分が忘れてるぐらい些細な事だった。背が高いから棚の一番上にある荷物を取っただけ。そんな事でヤキモチを妬いてもらえる日が来るなんて思わなかったから嬉しくて顔がにやける。こんな風に妬いてくれるようになるなんてねv
眉間におもいっきりシワを寄せながら彼女は俺が持っていた書類を乱暴に取り上げた。
おそらく自分らしくない気持ちに戸惑っているのだろう。俺は嬉しいけどね、その『独占欲』は。
こちらに背を向け書類を片付ける後ろ姿に「かぁ〜わいぃ〜v」と声をかけると耳まで真っ赤にして少しこちらに振り返り睨んできた。
「碓氷のアホ…!」
その顔…無自覚なんだもんね。キケン過ぎて厄介だよ、全く…。
「彼女達を手伝ったのは特に意味ないけど…」
腕を掴み引き寄せるとふわりと彼女の甘い香りに僅かに残る理性が揺らいだ。
「でも鮎沢は違うからね?」
そう、こうやって触れる事も見つめる事も…。
「なら…さっきみたいに笑うな…」
呟く声はとても小さくて消えそうなぐらいだった。
「だって鮎沢が可愛い過ぎるからつい…」
「……」
まだ眉間にシワを寄せている彼女にキスをひとつ落とす。
「じゃあ、鮎沢もそんな可愛い顔、俺以外に見せないでよね?」
真っ赤な彼女の頬に触れる。熱い彼女の頬。どうやらこの熱に理性は負けそうだ。
「好きだよ」と囁くと益々赤くなり触れた唇から彼女の熱が伝わってきた。
End