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□ウワサのデドコロ
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英語の授業が終わった教室。
男子生徒に囲まれながらも教員室へと戻ったマリアを見送った2組男子たちは、昼休みということもありマリアの容姿について話に花を咲かせていた。
小柄な身長や容貌はもとより、やはりあの胸に話題は集中している。
盛り上がる男子を尻目に、興味のない碓氷は購買部に向かうため教室を出ようとしていたが、扉を開けた直後に1人の男子に呼び止められた。
「碓氷もそう思うだろ?」
「―…何が?」
話を聞いていないのでいきなり振られてもついていけない。
そもそもマリアにはできるだけかかわりたくないものだから、不機嫌気味に返答すると、話し掛けた武沢がやや興奮気味に碓氷に詰め寄った。
「マリア先生の胸だよっ あの豊満な胸にはトキメクだろ? 色っぽいよなぁ〜v そう思わないか?」
「…別に…」
「……。テンション低いなぁ。
もしかして碓氷、お前って…貧乳好き?」
「なんでそうなる…胸なんてそれなりにあればいいよ。それより大事なのは…」
碓氷は何かを思い出すかのように視線を巡らせ言葉を濁らせる。
「なんだよ? それより大事なのって」
「感度」
問い詰めた武沢を見ずに言い切った碓氷の瞳は廊下の先、さくらとしず子と連れ立って歩いている美咲の姿を捉えていた。
「あぁ…でも胸に限らないか。それに色っぽさなら腰のラインの方が…ソソる」
片頬を上げながら言う碓氷の脳裏には、細いだけではなく悩ましいほどの色香を醸しだす美咲の腰つきが思い出されていた。
じゃ昼買いに行くから、と言い残して教室を出ていった碓氷は足早に廊下を進み教室を離れる。
残された2組男子たちは“碓氷の発言”ということに生々しさを感じ、皆一様に顔を赤らめていた。
その中でも一番近くにいた武沢だけが碓氷の表情の変化を見て取り、さっきの台詞が女子一般に対するタイプのことではなく、特定の誰かのことを指しているのだと感付いた。
「――碓氷…やっぱ彼女いるな、あれは…」
いつか聞き出してやろう、そう心に決めた武沢の呟きはその日のうちに広まり、また碓氷についての噂がひとつ増えた。
『碓氷拓海には彼女がいる。
その彼女は“色々と”色っぽいらしい…』
碓氷本人の耳にもこの噂が届いたが、ニヤっと笑っただけで否定も肯定もしない姿に、噂の信憑性が増したのだった。
end.(2010.03.20)