鬼灯の冷徹

□トルティーヤ秘密の片思い【トル檎】
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昼下がりの衆合地獄。
平日の昼間な事もあり客足はまばらでこの辺の店の従業員はどこも暇をしている様子。
ホストクラブ…もとい狐カフェ「狐の婿入り」とて例外ではなく屋内に見える客は2,3組5人ほどと言ったところだろうか。
最近できたばかりではあるが地獄の官吏のお陰でそこそこの業績を上げ今では従業員も増えつつあるのでこの時間暇を持て余す狐も少なからずいるわけで。
いつものホスト3人組、オジヤ、トルティーヤ、ホヤはといえばもちろん暇人組なわけで、本来ならば有り得ないのだがバックの控え室で此処に暇を潰していた。
いつもはこのメンツに檎が加わりくだらない世間話をしているのだが、今日はその姿が見えない。

「…俺ちょっと外行ってくるな。」

オジヤは携帯の画面をぼんやりと見つめ、ホヤはいらない紙で折り紙を。
そんな二人を眺めていたトルティーヤは気分を変えようと席を立ち、控え室を抜けた。足早に店内の隅の方を抜け出入り口付近まで辿り着き、外へ出る。
案の定そこには温かい日差しに誘われたのか檎が昼寝をしており頬杖をついたままうつらうつらと小さく揺れていた。
おそらく手に持っていたであろう煙管は持ち主の手を抜け白い石畳の上に横たわり、次は本人自身がころんと落ちてしまいそうだ。

「檎さん檎さん、外で寝てたら風邪ひくッスよ。」

寝こけている檎に視線を合わせるように縁台の前にしゃがみ名を小さく呼んでみるも、どうやらそのくらいで起きるような浅い眠りでは無いらしくぴくりとも反応が返ってこない。
しかも少し開いた唇のあいだからだらしなくも涎がひと筋垂れておりなんとも情けないものである。

「檎さんてば、仕事中ッスよ。」

このまま放っておいてもいいのだが取り敢えず声を掛け、檎の薄い肩をゆらゆらと揺らしてみればようやく意識が戻ってきたのか、まだ寝ぼけた声で「なんじゃ」と小さな声が返ってきた。
横たえた身体をゆっくりと起こせばその動きで傾いたカンカン帽が赤い縁台の上へ落ちたが、そんな事にも気がつかないらしく檎は手の甲で垂れた涎を拭い馬鹿にでかい欠伸を一つ。
夜の仕事が多いためあまり寝ていないのか、気怠そうに開かれた両目の下にはうっすらと隈ができていた。

「寝るならせめて客の見えないところにしてくださいよ。」

トルティーヤは情けない上司の姿に思わず苦笑を零し落ちた煙管とカンカン帽を拾って檎に手渡す。
長年使っているせいか帽子はところどころ傷ついて解れ、煙管も細かい傷みが出ている。
そろそろ買い替え時じゃないだろうか、なんて自分の事でもないのに考えながら今だ縁台に腰掛けたまま動こうとしない檎の隣に腰掛ける。
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