鬼灯の冷徹

□白澤さまがちっちゃくなったお話
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前日は仕事量が何時もより多く閻魔殿内では大勢の獄卒たちが忙しそうに休む暇の無く右へ左へと脚を運んでいた。普段はしょっちゅう仕事をサボっている閻魔もその日ばかりは休んでいる暇もなく慌しく仕事をこなしていた。そして官吏の鬼灯もまた例外ではない。寧ろ人一倍こなさなければいけないものがあるため仕事が終わった頃には珍しく疲労の色を漂わせ口数も少なに自室に引っ込んだ。

着物を脱ぐ事も無くふらりと小さなベッドへ歩み寄り倒れこむとどっと押し寄せてきた睡魔に逆らうことなく眠りに落ちる。幸い明日の仕事は休み。薄れ行く意識の中で何処か安堵を覚えながらも落ちる瞼には勝てずそこで意識はぷつりと完全に途切れた。


そして数時間たったころ、子供の騒ぎ声と身体にかかる小さな圧力に意識を眠りから引き戻された。


閻魔殿に子供など居るはずも無く、一度はシロでも遊びに来たのだろうかとも思い一向に開こうとしない瞼を無理矢理開き圧力の原因を確認する。
すると其処には何処かで見たことのあるような顔つきの、5歳くらいの子供が鬼灯の腰の辺りに跨って見下ろしていた。


「…貴方…どちら様ですか?それと私に何の用でしょう。」

これが大人ならば殴り飛ばそうかとも思ったが相手は子供だ。
それにだるい身体を動かしたくない事もありベッドに横なったまま問いかけると、その子供はようやく起きた、とでも言いたい風に目を輝かせ、その後焦ったように鬼灯の着物を掴むと細い腕でその身体をガクガクとゆする。

「鬼灯…!!目を覚ませ!僕だよ、白澤!!」

子供特有の甲高い声が耳に刺さり、鬼灯が鬱陶しそうに眉間のしわを深めるが確かに聞こえた相手の名に一気に意識が覚醒し、跨る子供の襟首を掴んで持ち上げ身体を起こすとベッドの上に胡坐をかいて座る。目の前に掴んだそれを降ろしよくよくその姿を見れば、疑う気持ちは晴れないが確かに神獣に似ている。
寝起きで頭が回らない、というのもあり困惑した風に自分の頭を掻き「冗談はおよしなさい・・・」と呟くも、ついで「嘘じゃない!」と放たれた言葉にやはりこいつは白澤なのだと納得せざるを得なくなった。

「白澤さん…貴方こんなに小さくはありませんよね?何馬鹿やってるんですか、早くもとに戻ってください。」

脇に手を差し込んで小さな身体をひょいと持ち上げれば白澤はむっと表情を歪め降ろせと騒ぐ。
取り合えず小さい白澤を膝に乗せどうしたものかと思考を張り巡らせるも、自分の知識の中には少なくとも『身体が幼児化する』などといった事柄の原因など思いつかない。

「元に戻れないんだよ、朝起きたらこうなっててさ。お前なら何とかできるかなーと思って。」

そんなはずあるか。
と喉まででかかった突っ込みの言葉を呑み込んで溜息をつく。

「知りませんよそんなの、放っておいたら治るんじゃないですか?…兎に角私は徹夜明けに貴方に起こされてしまって辛いんですよ、出て行ってください。」

知らないものはどれだけ考えても分かるはずも無く、ついでに徹夜明けに叩き起こされてしまったため再度襲ってきた睡魔に欠伸を零し、そもそもこいつのために自分が貴重な睡眠時間を削る必要は無いじゃないかと考え始める。
再度白澤の服を掴みそう告げながらベッドの横へ降ろすと無常にも布団の中へ潜り込んでしまう。
放置された白澤はといえば頬を膨らませ「助けてくれてもいいだろ!?」と叫びながら盛り上がった布団によじ登り鬼灯の上にしばらく乗ったまま耳元で叫んだりと安眠妨害に徹していたが、悲しいかな子供の身体であるため直ぐに白澤自身も眠気に襲われあっけなくその場に横たわってまどろみ、数分後には鬼灯と同じく規則正しい寝息を立て始めた。
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