一学期

□試験
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 大きいのを注文していたけど、成長期だし、すぐに食べ終わった。
店内には僕たちと同じ制服が沢山いた。まぁみんな考えることは同じで、遊びに出かける前に腹ごしらえ。小さな町だから行くとこが限定されるけど。マクドは男が多いけど正面のミスドは女子が多いとか、そんな違いしかない。

河合は僕らよりゆっくり食べるからまだ食べていたけど、話をしてくれた。
っていうか河合がハンバーガー食べてるってイメージできる?僕は実際目の前で見ていても実感がわかないや。

僕が余計なことを考えているうちに河合は話を始めていた。


「まぁ言ってしまえば引き取ってくれたんですよ。」
「両親は?」
「淡路大震災の時に他界しました。小学校にあがるまでは親戚中をたらい回しにされていたんですけど、遺産を食い潰されて施設に入れられそうになった時に3回忌で初めて芭蕉さんが来て、僕を引き取りました。正式な親権は芭蕉さんにありませんが、まぁ今の僕にとって親権はいらないでしょう。」
何か突っ込んで聞いちゃいけない内容だったかなと初めは思ったけど、特段悲しんでいる様子は無く、いつものように話ていた。

「何でついて行こうと思ったんだ?その時に初めて会ったんだろ?」
鬼男君はウーロン茶をすすりながら聞いた。
「芭蕉さんが変な俳句を詠んでて。後ろから蹴り飛ばしたら笑っていたんですよ。この人と居れば楽しそうだなって思ったんですけど、その日の夕方になると僕が離れなかったらしいです。以前、芭蕉さんがそう話してくれました。」
食べ終わった後の包み紙を丁寧に折ながら話し終わった。
「この前まではお互いに誤解したままでしたけど、今では仲良くしてますよ」

フッと口角をあげて笑うが、普通の笑い方じゃないよね。含みがあると言うか…多分生活においての楽しいとか彼と僕らの間に違いがある気がするよ。

「河合ってば苦労したんだな。芭蕉さんと会えて良かったな」
鬼男君はニコリと笑って河合に言った。 僕も何か言ってあげたが良かったんだろうけど、鬼男君に言われてしまった。
「そうですね。芭蕉さんと居れば楽しいですから。施設に行くよりは随分楽しい生活が出来ましたよ。そんなことより小野君、鬼男に話したんですか?」

聞きに撤していた僕に突如河合は話を振ってきた。直ぐに反応できなかった僕は、少し遅れてまだと答える。

「え?何があったんだ?」
鬼男はキラッとした瞳で僕を見てきた。
「うん、両親が海外に引っ越して、僕だけ日本に残ったの。」
「海外?」
「うん。転勤だって。」
「えっ、じゃぁ今どうしてんだ?」
「太子がマンションを借りてくれて、そこに暮らしてる。」
「へぇじゃぁ僕たちみんな親から離れてるんだ。」
鬼男君が言った。
鬼男君の両親は共働きで互いに単身赴任をしているらしい。それで小さい頃からおばあちゃんと二人暮らしなのだそうだ。
「でもしょっちゅう閻魔が来るよ。婆ちゃんも楽しそうだし、最近家事とか大変そうだから二人でやってて。そういうのも楽しいよ」
ニコリと笑う鬼男くんを見れば、それだけでほんとに楽しいんだろうなってのが伝わってきて、うらやましかった。僕も太子と二人でご飯作ったり洗濯したりしたいなぁ。

「妹子は?もう一週間たつんだろ?家事は慣れた?」
「まぁそこそこ?そうだ、来週からバイトもするんだ。」
「へぇ。何するんだ?」
「喫茶店って言ってたかな。」
「自分が働く場所なのに、わからないんですか?」
二人が目を見開いて僕を見てきた。
「うん。バイト先も太子が用意してくれて…何か僕、太子に頼ってばかりだね。」
「でも、太子が妹子に何かしてあげたいって気持ちだから頼っても良いんじゃないかな?」

自分達で頑張ってる二人の話を聞いているうちに、結局僕は自分で何にもしてないじゃないかって落ち込みかけたけど、鬼男君がそう言ってくれたから何だか気が楽になった。

「僕も芭蕉さんに頼りっぱなしですから。それに、多分完全に一人でやらなければいけないことは沢山あると思いますよ。生活費だって結局は自分が働かないといけないんだし。頑張ってくださいよ」
「うん。ありがとう。やっぱり僕は日本に残って良かったよ」
長々と話していた事で、結構時間が経っていることに気が付いた。

「学校終わったの12時だろ〜?もう3時か」
鬼男君が携帯で時間を見れば、随分長きにわたり滞在していたことを知る。
「あ、電話だ。」

そのまま電話にでると、鬼男君の顔がパァッと明るくなったこと。どうやら電話の相手は大王のようだ。
何度か相槌をうってわかったと告げてから電話を切った。

「なんかね芭蕉先生と太子と一緒にこっち来てるってさ。」
「へぇ。」

十分も経たないうちに3人が階段を登ってきた。芭蕉先生は心なしか息が上がっている。

「3階だなんて聞いてないよ。学校でも上ったり降りたり、もう、私の脚は,パンラハギ!」

パ、パンラハギ?初めて聞いたよ。

「みんなの事送って行くよ。」
太子がそう言うと、大王は「こいつ免許持っててさ、車持ってんだ。金持ちって良いよな〜」と言っていた。

どうやら店の前に止めているらしい。
「あ、鬼男と俺は商店街に行くから良いよ。店手伝ってよ。姉貴、風邪気味でさ」
「うん。良いですよ」

なんだかシュールな光景になりそうだぞ。あのファンシー雑貨屋にデカい男が店員だなんて。鬼男君、僕たちの中で一番大きく見えるし。実際は河合より身長無いけど。
 河合は身長高いけど、鬼男君ほどがっちりしてないし、この中では僕が一番小さい。悔しい事に芭蕉先生の方が1センチ背が高い。くそぅ。

「ねぇねぇ、今度私も店に行って良い?」
「あぁ!おいでよ!」

ニパッという効果音がつきそうな笑顔を浮かべる大王。いや、だから店の濃度が高くなるよ。

「じゃぁ行こう。気を抜いたら駐禁取られちゃう」
気を抜いても入れても取られるときは取られると思うけど、僕達は急いで下に降りた。
「も、もう下に降りるの!?」

芭蕉先生は独りでショックを受けていた。

下に降りれば黒のボディが光るスポーツカー。
「何だか以外です。…が、それより早く来てください芭蕉さん」
「えぇ待ってよ…私の足はパンまつ…「早くしないと定期だけ持って置いていきますよ」
河合は容赦なく芭蕉先生の発言を被せてすっぱり切り裂いていく。

「ま、待ってよ〜」
「ふん…少し走らせますか?」

あぁ、どSな河合が降臨しちゃってるよ。
「ま、待って…ハァハァ…疲れた。」
河合はドアを開けて、芭蕉先生を乗せると隣に座った。
 ドアを開けてあげたりしてるのを見ると、やっぱり河合は芭蕉先生を大事に思ってるんだなってのがわかるよね。

僕は助手席に乗り込み、鬼男君達は商店街の中心へあるいて行った。

一時間したところに芭蕉庵があるが、駅前のスーパーで二人を降ろした。

そして40分ほどかけてマンションについた。
 僕達は家に帰り着くとギュッと抱き合った。

「太子お疲れ様。」
「ありがとう。結局夜中にしか帰れなくてゴメンね」

テスト期間中は理事業に撤していた太子。結局一週間、太子は多分4時とか5時とかに帰って来て8時に僕が起こして…の繰り返しだったから。

「明日から休みだし、ゆっくりしてください。」
「うん。ありがと。」

ゴールデンウイーク入ってからバタバタしてたけど、明日からゆっくり過ごすことが出来そうだ。
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