一学期
□旅行
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一悶着も終わり、目的のジェットコースターにたどり着いた。そこには長蛇の列が出来ており、最後尾と札を持ったスタッフが居るところへ並んだ。
「大分時間があるね…ほら」
大王は待ち時間が120分となっている電光掲示板を指差した。
二時間も待たないといけないのか。
なんて、はじめは思うけど、待ち時間もデジカメで写真撮ったり、耳交換してみたり、今度は写メ撮ったりしてなかなか楽しめた。
「う〜…」
「大王どうしたの??」
そんなとき、心持ちイライラている大王。
「たばこ…たばこ吸いたい」
「私の目が光っているうちは駄目だって、言ったよね」
「わかってるけど〜」
確かに、これまで愛煙家だった大王にとって、長い時間の禁煙はきついらしい。
学園では休み時間に理事長室にもぐりこんで喫煙してるらしいけど。
「あ、大王。これあげる」
そう言って、僕はキャラメルポップコーンを差し出した。
「え、いつ買ったの?」
「芭蕉先生待ってる時に。僕これ好きなんだ」
二匹のリスが描かれケースに入った甘い甘いキャラメルポップコーン。
「鬼男が食べさせてくれたら、治るかも」
「はぁ!?何言ってるんですか。切り裂きますよ」
「鬼男が食べさせてー!!」
子供のようにはしゃぎだし(あ、これ調子乗ってるな)周りの客が僕たちを見始めた。
というか大王の容姿が注目を浴びている。
中性的な顔だちをして、男か女かパッと見では分からない大王。あ、男?と見ている者が理解する頃にはスカートをはいている所を目撃する。
ハッキリ言って変態を見る目だ。
河合と芭蕉先生は鼻から二人の世界に入ってるし、太子と妹子は僕たちからそっと目線をそらせている。
「じゃぁ、口開けてください」
これ以上注目を浴びるのも大王がうるさいのも僕の為にならないし、ちょっとイタズラも考えてみた。
目をつぶって嬉しそうに口を開ける大王。
そこに僕は大量のポップコーンをねじ込んだ。
「ほがっ!!!」
「いい加減にしてくださいよ」
口を閉められず、呼吸ができないせいかふがふがと顔を青くさせている。
やっと食べることができたのか、ぜーぜーと肩で息をしていた。
「殺す気!!?」
「死んでも良かったんですよ」
「もっと優しくして!!大王は繊細なの!ガラス細工なの!!」
「割れてしまえ」
そんなやり取りをしている間にすっかり順番が回ってきた。
8人掛けのシートだったので、うまい具合に僕たちはシートに座れた。
「じゃぁ、カメラが回る時、ちゃんとカメラ目線で笑顔でね!」
「結構無理な注文??」
太子が嬉々としてそう言うとコースターは出発した。
キャラクターがようこそ!とか言いながら道案内をしてくれる。そしてスピードを上げながら左右に傾き、思わず驚きの声が聞こえてくる。
そしてついにその時間がやってきた。
じわじわと頂上に登り、外の光が見えてくる。明るみに出たとき予想以上高い場所から落ちることに心臓が引きつった。
「キャーーーー」
という声とともにカメラに向かってピースをあげる太子と大王。
太子にギュッとしがみついてるまるで女の子な妹子。
僕はバーをぎゅっと握って目をつぶってしまった。
後ろの芭蕉先生と河合はどうしてるんだろう。
水しぶきが噴きあがり、アトラクションが終わった。
「結構怖い」
大王ってば意外と腰抜け何だから。
出口に並んだディスプレイに僕たちの写真が並んでいた。
が、どうやら河合と先生はそれどころじゃないようだ。
「見てください。松尾芭蕉の魂が抜けていきますよ。滑稽な」
「滑稽なじゃないよ!!!」
河合は芭蕉先生を支えるように肩に手をまわしていた。
真っ青な先生は心なしか過呼吸気味だ。ほんとに、大丈夫か?このままぽっくりとかありえそうで笑えないんだけど。
「写真は僕たちが買って置くから」
「ごめんねみんな…私、自分の限界を…」
「芭蕉先生。大丈夫ですよ。ゆっくり休んでください」
そう言って、河合と芭蕉先生はどこか座れる場所を探しに行った。
僕たちは僕たちで写真を6枚購入すると、芭蕉先生の生気の抜けた顔に笑いたくても笑えなかった。何より、この誰もが叫びだしそうな笑顔の中、一人無表情で写る河合。
「河合って笑うことあるのかな??」
日頃の疑問をポロリとつぶやけば、妹子が答えてくれた。
「なんか、いらないものを捨てた時とか処分したときに笑うらしいよ」
「え、やだナそれ。」
僕たちが写真を見て立ち止まっていると、太子と大王が手を振って呼んでいた。
「次にいくよ!」
そうだ!夜のパレードまでまだまだ遊ばないと!!!