一学期
□日常
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絶対なんかある。
そんな不安に駆られながらも、家に帰ると、すでに太子が家にあがりこんで、勝手知ったる僕の部屋でくつろいでいた。
「あ、お帰り!」
「なんでいるんだよ…変態なうえに犯罪者かよ」
「酷っ!!お母さんが上げてくれたんだも〜ん」
「その母さんがいないんだけど??」
「なんか失ったものを取り戻してくるって出かけちゃった」
「はぁ??」
太子は僕のベッドでごろごろ転がりながら枕に顔を伏せた。
「妹子の香り〜聖徳太子〜(ハーブの香りで歌ってね☆)」
「キモいんですけど!!!」
「おっふあ!!!」
僕の枕の匂いを思いっきり嗅いでいた変態に、手で握りし閉めていた先ほど閻魔先輩の雑貨店で買ったアクセサリーを顔に投げつけた。
相変わらず先輩はひどい顔をしながら叫んでベッドに倒れこむ。
「い〜も〜こ〜!!!生意気だぞ!!」
「え〜。そんな言い方されたら僕が格下みたいじゃないですか」
「え、私先輩だよね??」
「変態でしょ?」
そして先輩は手元に落ちてきた紙袋を見つめた。
「妹子、これ何??」
珍しそうにつまみあげ、360度くまなく観察している。
「先輩にプレゼントです。似合いそうだったので買ったんですけど…」
「え!私に!!?」
キラキラした瞳で僕を見つめ、頷いて見せると嬉しそうにその袋を開けていた。
「きゃー!妹子ってばエッチ!!」
「何がぁぁぁぁああ!!!???」
突然先輩が訳の分からん事を言うので、僕は先輩の手に握られたそれを見て思わず叫んでしまった。
「あのゲソ野郎!!!やりやがって!!」
そこには先輩の為に買ったヘアアクセサリーを本来のゴムの使用法と同じようにコンドームを束ねていた。
どうりであの時、気味が悪いほどニヤニヤしてたんだ!!
「すいません。僕が気を抜いたばっかりに大王にやられました」
僕は先輩からそれを受け取ると、いらないプリントとまとめてゴミ箱に捨てようとしたら、先輩に止められた。
「太子??」
「今度使ってみる??」
にこりと笑うその笑顔、黒いものは何にもないけど、真っ白とも言い難い。
あくまでもグレーゾーンな太子の笑顔に、僕はうんともすんとも言えなくなった。
ただ顔が赤くなるのは自分でもよくわかる。
そのまま引き寄せられ、僕は太子の膝の上をまたぐようにベッドに膝をつかされた。
そして、顔を両手で包まれて何も言わない僕をじっと見つめてくる。
僕は先輩に見つめられるのがすごく苦手。だって、触れられるより緊張するんだ。太子の目は何でも見透かしてると思うから、こうやって僕の気持ちを知ってて見つめてくる。
そこで、ふと、僕は大王に言われたことを思い出した。
(照れた顔でイジワルとか囁かれたら、誰だって悪戯したくなっちゃうでしょ)
「先輩の…イジワル…」
すると、こんな空気が流れてるときに表情を変えた事なかった先輩が顔を真っ赤にさせてギュッと抱きしめてきた。
「ちょ…何今の!!?何か興奮してきた!可愛い!!何たる破壊力!!」
「ちょっと、先輩!!!」
僕の胸に顔を寄せ、スリスリと頬を寄せる。
「なんか我慢できない」
「んっぁ…」
先輩はシャツの中に手を入れて、直に背中を温めながらキスをした。それから、首筋、まくり上げたシャツから覗く胸先に、唇を滑らせながら口づけを落としていく。
「あ、んっ…太子ぃ…」
「妹子…可愛い…」
「母さん帰ってく…」
くすぐったさで僕は太子の肩をぎゅっと握る。それでも声だけは我慢できなかった。
「あぁんっ…」
乳首をキュッと吸われて顔がうっとりとなるのが自分でもわかった。
そんな一段と高い声を上げた時に、がちゃとドアが開く音がして、とろりとした表情のまま背後を振り返ればそこには血の気を失った母さんが立っていた。
僕は母さんと同じくらい顔から血が引いて行くのを感じ、すぐに正気に戻ると先輩を殴り飛ばして苦笑いを浮かべている母さんに駆け寄った。
「ち、違う!かあさん!違うんだ!!!」
「うぅん。良いの。まさか息子の情事を目の当たりにするとは思ってなかっただけだから」
「母さん!!!」
そんなわけで、沈黙が続く気まずいまま僕たちはご飯を食べた。
「妹子さっきのこと気にしてるの?」
「お前が言うな!このっ馬鹿太子!!!」
それでも、なんでか僕たちはいつも通りだった。無理してるとかじゃなくて、諦めてたから。母さんに理解なんて求めちゃいけない。だって普通のことじゃないから。
「フフフっ」
それを見て母さんは楽しそうに笑っていた。
「妹子、焦りすぎ…あははは!!!」
「え??」
何事もなかったかのように、母さんは声を上げて笑い続けている。
「ごめんね妹子。母さんね、妹子と太子君がそう言う関係だって最初から知ってたの」
「はぁん??」
あいた口が塞がらない。なんで?どういうこと??
「母さんさっきそれを聞かされたの。太子君にまじめに話された。信じられなくて家を飛び出しちゃったけど、ふらふら歩いてたら何で飛び出したか忘れちゃってどうでもよくなっちゃって」
「そこはどうでもよくないんじゃない!!?」
母さんの天然ボケっぷりに思わず突っ込んでしまうと、母さんはにこにこ笑っていた。
もしかしたら太子や大王以上に読めないのは僕の母さんなのかもしれない。
「二人の間に大きな壁はあるけど、お母さん気にしないよ。だって妹子が好きになった人だもの。それがたまたま太子君だっただけ。ね?それで良いじゃない」
母さんはこれまでに見た事ないようなキラキラした笑顔で僕にそう言ってくれた。
「母さん…」
僕はうれしくなってありがとうとほほ笑むと、今まで喉が通らなかった食事もすんなり食べれて珍しくおかわりまでしてしまった。
「でも、今度からイチャイチャする時は母さんがいない時にしてもらうかな」
僕は母さんに苦笑いを浮かべた。
とある日常の出来事でした