一学期
□僕らの出会い
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授業、掃除、ホームルームが終わると、僕は思ってもいない人物に話しかけられた。
河合だ。
いや、ほんとに勘弁してほしい。
「小野君。ちょっと良いですか」
落ち付いてゆっくりしゃべるところがなんかもう、妙に怖い。
「何?」
「さっきの授業のことで芭蕉さんに断ざ…ちょっと話があるので、美化委員を代わりに行って欲しいんです。」
今断罪って言おうとしてたよね。
そんな事はさておき、美化委員か。
「てか、河合って美化委員だったんだね。」
「えぇ、他のに比べて楽でしたから」
「あ、そう。で?何があるの??」
「週に一度の集会が今日で、今はそんなもんに行ってられないのでお願いします。」
河合はそう言うと、教室名を告げて職員室へ向かってしまった。そんなもんって言いきっちゃったよ…。
まぁ、僕も特別部活とかしてるわけじゃないし、委員会の仕事も入ってないから問題ないからいいか…
僕は言われた教室に行くとまばらに生徒が集まっていて、携帯をいじったりしゃべったり机に伏せて寝ていたりしていた。
「あれ?妹子じゃん」
「あ、鬼男君…」
「河合は?」
「なんか芭蕉先生を断罪しに行ったよ」
「はぁ?何だそれ??」
鬼男君は違うクラス何だけど、授業とかで隣の席になったりして仲良くなった。
そうか、クラスが離れると河合の奇行は耳に入らないのか。
僕はうぅん。なんでもないと首を振った。
「あいつうまく押し付けたな〜。今日は週に一度の庭の雑草抜きなんだ」
「ほげ〜。最悪なんだけど」
「あ、でもお前の憧れの『太子先輩』くるよ」
「え!そうなの!?」
僕は柄にもなく高い声で喜んでしまった。
あぁ、視線が痛い…
「あぁ、でもあの人のどこが?憧れるんだ??」
「え?なんで?かっこいいし、勉強できるしなんか完璧って感じじゃない?」
鬼男君はとても不思議そうにしていた。なんだろう、僕の知らないこと知ってるから疑問に思うのかな??
「あの人近くで見たことあるか?」
「無いよ。」
「かわいそうに。幻滅するよ」
本当に心底かわいそうにといった憐みの目で僕を見つめる鬼男君。いやいや。幻滅って失礼じゃないか?
先生がやってきて、先輩も後ろのドアに寄りかかり、いくつか説明があって移動となった。
でも、鬼男君の話やこれまでの説明なんてお構いないしに、僕の心はすでに先輩へ向いていた。
だって話しかけるチャンスができたんだ。朱に交われば朱に染まる!僕も先輩みたいになれるかもしれない!
先輩みたいに…
「…ブの香り…太子〜」
先輩みたいに…
「イ…ン過ぎて…困っちゃ…!!!」
「なんか変な歌歌ってるぅぅぅ―――!!!」
「む?おや、君はさっきの…」
ヤバい。僕の中の危険信号が猛烈に赤を点滅させている。
これまでの先輩像がガラガラと音を立てて崩れ去るなか、おかしな人というレッテルが所狭しと張られて行く。
てか、あの距離から僕の顔覚えてるの!!??
「何かの縁だ、ちょっと聞いてくれないか?」
「嫌です」
「まぁまぁそう言わずに聞きんしゃーい。」
「いあぁぁぁぁ!!!」
僕は遠くに離れて行ってしまった鬼男君を見つめながら腕をガシリと太子先輩っていうかカレー臭いおっさんに掴まれてしまった。
「聖徳セレナ〜デ〜…マンボ!!!…ていう歌なんだけど、感想を聞かせてほしいんだ」
「感想なんてありませんよ!!離せ!カレー臭がうつる!!」
僕は腕をぶんぶんと振りあいてる左手であごからこぶしを突き上げた。
「オペラっ!!!!」
太子先輩は簡単に体が宙に浮きそして頭から地面に突っ込んで突き刺さった。
「えぇぇええ!!ならないでしょ普通は!!!!」
僕は突き出た足を抱きかかえてすぽんという気持ちの良い音をさせて引っこ抜く。
「びっくりした!知ってるか?地面の下にはなんと花畑と川が流れてるんだぞ」
「それって三途の川!!!」
ダメだこの人と居ると自然に声が大きくなって何だか突っ込みをしてるんだけど。
チョット待て、ちょっと待て…
「鬼男君!離れないでよ!!!」
「僕、ちょっとそっち系の同類はご遠慮してるんで」
「なに系でも無いよ!!!」
あー!何だか一日で僕が違う人間になって行く気がする!!!
「悩みごとか?」
「あんたのせいだよ!この河童がぁ!!!」
「酷っ!それって私の髪型??てっぺん剥げてないよ!!」
「嫌っ!!先輩はぜひとも一人でご自由にどうぞ!!」
僕は素早く立ち上がり鬼男君がいる場所へ行こうと試みるが、太子先輩が芭蕉先生もびっくりするぐらいしょんぼりして体育座りをすると膝に顔を埋めていた。
視線の先にあるシロツメクサの群生をムシリむしりとちぎっている。
え、ちょっと…泣いてるわけないよな?
「あの、先輩??」
「おぉまぁ!!!四つ葉のクローバー見つけちゃったもんね!!私の勝ちだぁ!ほら妹子!!どうだ、悔しいだろ?」
「うぜぇ!なんかむかつく上にうぜぇ!!…てか今…名前…」
すると先輩は立ち上がって私を見つめてきた。
「小野妹子…私は何でも知っているよ…君だけじゃない…学校全員のことを知っている…」
さっきまでとは全く違う人を見ているようだった。
同じ笑顔なのに何だかアホっぽさが抜けている。
なんだか今この場のすべてを支配しているような感覚にとらわれた。吹いてくる風も、揺れる髪もざわめく木々も、すべてがこの人の意志で動いているような。
「さーてと…四つ葉も見つかったことだし私は帰るとしよう。妹子、ココむしったやつの処理お願いね☆」
「最後までうぜぇっ!!!」
四つ葉のクローバーを片手によく分からないステップを刻みながら校舎へ消えて行った。
姿が見えなくなると鬼男君がごみ袋片手に僕の肩を叩いて来た。
「鬼男君…最低」
「ごめんって…わかったろ?あの人にかかわると変人扱いなんだよ」
「僕ってば何にも知らないであんなアホに憧れていたのが恥ずかしいよ」
「でも、ほんと、何考えてるかわかんねぇよなぁ…あの人…」
「うん。もう関わり合いにならないことを願うよ」
そう言って僕たちは作業を終わらせた。
四葉の出会い