一学期

□子供
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 夏休みもあとわずか、そんな時に僕はいつもと違うバイトに行くことになった。
 それはやっぱり太子が持ち込んできたものであった。

 メールで来たんだけど、どうやら河合と鬼男君にも連絡が行っているようで太子に言われた通りの時間に僕たちは集合した。

 その場所というのは

「…聖徳園…??」

 お寺の中にある孤児院だった。
 面倒を見ている住職さん達が年に一度の健康診断で丸一日お寺を開けるらしい。

 ただ、何で太子からここに行くように言われたかというと、幼少のころ何年かお世話になったのだそうだ。

「ッつってもさ…何すれば良いんだ??」
「さぁ…??」

 寺の前に付いた僕たちは大きな門を目の前にして首をかしげた。

「太子から何も聞いていないんですか?」
「うん。ここに来てねとしか。太子も午後から来るとか言ってたけど…」
「俺、鬼男以外の子に興味無いんだけどな」

 タモを片手にセーラー服をまとった変態が言った。
 どうやら暇をしていたらしい大王は鬼男君について来たようだ。

「っていうか何で太子のやつ俺のこと誘ってくれなかったんだよ〜」

と、一人で頬を膨らませてぶーぶー文句を言っている。

『鏡見て出直してこいよ変態大王イカ』

 僕たちは声をそろえてそう言うが、大王は「変態じゃない!イカでもない!」と俄然講義をしてきた。
 うるさいのでシカトして僕は中に入ろうと、みんなを促した。

 僕たちが境内に入り、本堂へ入いろうと縁側に向かったら

「それー!!!」

 と、声が聞こえてきて、水風船が投げられてきた。

「えぇl!!!??」

 僕たちはあっさりと大量の水をかぶってしまった。
 いきなりビチョビチョになり、僕たちが混乱していると、隣では河合が黒いオーラを放出し始めた。

「ちょ、ちょっと河合…」
「いくら子供だからと言っても許されないことは許されない…僕がお仕置きをしてあげましょう」
「子供相手に何やろうってんだよ!!」

 鬼男君が河合を止めるが、その狂気に満ちたオーラともども止めることができなかった。

 そしてさらに本堂から水風船を投げてくるし、 後ろからは水鉄砲を構えた男の子が3人で僕達を取り囲んだ。

「…ニヤリ」

か、河合が笑った!!!
すると、びっくりするほど素早く独りの男の子を捕まえると、あっと言う間に抱え込み、無言で水鉄砲を奪うと中の水を全てその子に掛けたのだ。

「うぉぉ!セーラー濡らしやがってクソガキがぁ!!」

大王は大王で、タモを振り回しながら自分を狙っていた男の子を追いかけ回している。

「あのね、僕達は喧嘩しに来たんじゃないんだけど」
「泥棒だろ!?ふざけた格好しやがって!!男女!!」

僕はそう言われて固まった。
男女…?

僕に対する禁句を言ったね。
いやーしかし相手は小学生。怒るのも自重しないと。

「何か言ってみろよ!こいつ男のクセに女みたいだな!弱虫」
「だーれーがぁ…男女だってぇ…?」


やっぱり自重出来なかった。

僕は縁側から指を鳴らして本堂に上がった。様子がおかしいことに気が付き震えるその子に手を伸ばし、頬をつかみあげた。


「この口か?行儀の悪い言葉を話すのは?縫いつけてやろうか?」
「いっ…ごっ…ごめんな…さいっ…」
「誰かー!誰か妹子を止めっ…魚っ!?」


鬼男君がそう言ったので僕が後ろを振り返れば竹中さんが立っていた。

「やぁイナフ」
「竹中さんっ!何でここに?」
「太子に頼まれてね。あはは。この子達、またみんなして悪戯したんだね」

僕が掴んでいた男の子を竹中さんが抱えると、勢いよくお尻をぶっ叩き始めた。

「ぎゃー!!」
「むやみやたらと攻撃してはいけませんと何度言えばわかるのですか?」

竹中さんは容赦なくお尻をぶった叩き、その男の子は何度も謝りながら涙を流した。

「ごっごべんなざい…」

結局僕らに攻撃してきた男の子達は一人一人お仕置きに尻を叩かれ、泣きながら僕達に謝ってくれた。
 
「いや、僕らも自重できなかったしごめんね」

 そう言って僕も謝れば
「お前、案外良い奴だな」

と、リーダー格っぽい男の子に言われ、あははと乾いた笑いを浮かべた。

 僕に対し未だ納得がいかないのが河合のようで、相当根に持っている。
 いや、多分今度は自分から仕返しに行かないと気がすまないんだろうな。

「ところで竹中さんはなぜここに?」
「私はここの出身なんだ。」

 それはここで世話になったという意味だろうか?それともこの寺の池から生まれたという意味なのだろうか??
 竹中さんは頭の尾っぽビタンと揺らした。

「太子もよく悪戯をしていたよ」
「太子ってどんな子供時代だったんですか??」

 みんなはそれぞれに打ち解けてキッチンで何かをしていた女の子たちも合わせて一緒に遊んでいる。
 河合は夏休みの宿題であろう習字を手伝い、大王は女の子と打ち解けて一緒に何かを作っていた。
 鬼男君は名前の通りに鬼ごっこをさせられ、寺の庭や境内を駆け回っている。


 結局手があいてしまった僕は、リーダー格の男の子「太一君」が付いて来ながら僕たちの話を聞いている。

「昔の写真はどこにあるんだっけ?」

 竹中さんがそう聞くと
「こっちだよー!」
と言って、納戸まで連れてきてくれた。

 少し埃をかぶったアルバムを取り出せば、畳の上に広げ興味しんしんで覗き込んだ。

 少し時代を感じるカラー写真に写るのは小さい頃の太子だった。
 いたずらっ子のような笑顔を浮かべ池の鯉をつかんだり、住職さんに肩車をされていたりしている。
 たまに今と同じ姿の竹中さんが写っていた。

「…」

 竹中さんって一体何者なんだ…???
 そんな疑問をよそに竹中さんは話を続けた。

 頭が良かったからたくさんの仕掛けを寺にしかけてお客さんを困らせたり、同じ子供を引き連れて悪さばかりしていたんだって。
 でも、悪戯が過ぎて半鐘の下がっている屋根から転落事故を起こしてからああなったらしい。
 なんだどこかで聞いたことのあるような話だけれど、とにかくそこから太子はちょっと頭が飛んでしまって集中力が途切れたり変な歌を歌い始めたりするようになったらしい。

「あ!太子兄ちゃん!!」
「おー!!!あ!妹子!!!」

 そこで、太子がやってきて太一君はうれしそうに抱きついた。が、僕を見つけると太一君を腰にぶら下げたままタックルの如く抱きついて来た。

「太一も元気だったかー??」

 なんだか兄弟みたいで微笑ましい。
 太子は太一君を抱っこして立ち上がった。

「何見てたんだ??」
「今太子の子供の頃の話を聞きながら写真見てたんですよ。太子変わってませんねぇ」
 僕は体を寄せてしゃがめないでいる太子にアルバムを見せた。

 そうすると、竹中さんはお昼御飯を作ってきますと言って行ってしまった。

「妹子兄ちゃんは作らないの??」
「え?何で??」

 太一君は太子にしがみついたまま首をかしげた。
 というか何でそうんなことを言うんだろう?

「妹子兄ちゃんと太子兄ちゃんに作ってあげてるのかと思った。今ねそう思ったんだ。なんだかお父さんとお母さん見たいだし」

 そう言われて僕は、頬が赤くなるのがわかった。
 子供ってなんて敏感なんだろう。

「じゃぁ妹子がお母さんだな」
「えー太子がお父さんとか…不憫」
「ええ。そんな顔するなって。」
 僕たちがそんなやり取りをしていると
「ほら!やっぱり仲良しだ」
 と、ほほ笑んだ。
「もう!太一君はからかわないでください!!僕も竹中さんを手伝ってくるので、太子達はみんなと遊んできてください!!」

 そう言って僕は逃げるようにキッチンに向かった。
 はぁぁ・・・お父さんとお母さんか…

 僕は自分でホワンと想像して見た。
 赤ちゃんを抱っこする太子とお母さんな僕…

「ちがうっ!!!!!」

 一瞬でその想像を振り払えば、廊下を歩いてきていた鬼男君にびっくりされた。

「あの…大丈夫か?顔が真っ赤だぞ?」
「う、うん。大丈夫。ちょっとあらぬ想像をしてしまっただけだから」
「ココが寺で良かったな。108つの煩悩を鐘で撞けるよ」
「ははっ…そうだね」

 そんな会話をしながら僕たちはキッチンへ。鬼男君も竹中さんを手伝うのだそうだ。
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