一学期

□高橋妃
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この湖がきれいだったから僕は一度屋敷に戻って持ってきていたデジカメで写
真に残した。いや、ホントに綺麗な場所だよ。何だか申し訳ない。あんなことこ
んなことやっちゃって。

そして屋敷に誰も居なかったから海へ向かった。


たくさんの光が動き回っていると思ったら、大王達は花火をやっていた。

「あー!太子に妹ちゃん!どこに居たんだよー。先にやってるぞ!」
「すまんすまん。ちょっと山の方にね」

そう言って僕はみんなの写真を撮りながら花火を楽しんだ。

打ち上げに、仕掛け花火に、ナイヤガラ。
どれもきれいで楽しかった。

「ほら、受け取ってくださいよ」
「ほばばー!火がこっち向いてる!あっつぅ!」

相変わらず河合は芭蕉先生をいじめるし、太子と大王とは花火を両手に格闘している。あまりにも危ないソレに、鬼男君は涙ながらに二人を押さえに入っていた。

僕はそんなみんなの様子を笑いながら見ていた。
実は僕、火が怖くて線香花火も握れないんだ。笑うと良いさ。ビビりと言うが良いさ。何を言われても僕は花火を見ることが出来ても持つことは絶対できない。


はっきり言って僕は海にも行かないし花火でも遊べないし、夏は楽しめるものじゃないと思っていたんだ。
夏休み入れば夏期講習に稽古づくめだったし。

だからこんなに楽しい夏休みに僕は無性にも涙が出てきた。
何だかずっと狭い世界に引きこもっていたんだなって思い知らされる。

「あれ?妹子!?何で泣いてるの!!」
「ひゃぁぁぁあ!」

太子は花火を持ったままこちらへやってきて、思わず情けないほどの悲鳴を上げた。
ポカンとしているが、眉根を寄せ、悲しそうな表情をしていた。拒否しているような誤解をさせてしまった。

「妹子?」
「は、花っ…花火怖い!」

 僕は思わずそう叫ぶと、太子は持っていた花火の火をたばこを消すように砂浜に押し付けて何も持っていないよと両手を上げた。

 後ろでは大王が転がりながら大爆笑している。

「じゅっ…15にもなって…花火怖いって…ぎゃはははは」

 笑われても良いと思ったけど、いざ笑われると

「ムカつく」

 しかしそんな僕のささやかな怒りが神様に届いたのか、大王は滑って転んでろうそくの上に倒れこんでいた。
 ほんとに危ない奴だよ。

 太子は僕の横に座ってたくさんの花火を消費していく4人を見つめた。

「どうして言ってくれなかったんだ?」
「いや、すっかり忘れてました」
「そっか。それじゃぁ仕方ないな」
「でも、見るのは好きですから」

 小さな打ち上げ花火がポシュポシュ音を立てながら空へ打ちあがった。

 小さな島の浜辺で花火を見ることができるなんて何だか贅沢な風物詩だなぁ。
 なんてしみじみ思ってしまう。
 

「ね、太子」
「ん?」

 僕はカメラのレンズを自分たちに向けた。

「一緒に撮ろう」

 そう言って顔を近寄せて、僕より腕の長い太子がカメラを構えた。

「行くぞ〜」

と、太子が気の抜けるような掛声をすれば、僕は寄せていた顔をずらしほっぺにちゅっと唇を触れさせその瞬間にカメラが光った。

「ちょっ!妹子ってば大胆!!びっくりしたんだけど」
「へへ〜太子って冷静だからちょっと驚かせたくて。」

 そうやってると、地元の不良よろしくガラの悪いお兄ちゃん風に4人が集まってきた。

「イチャイチャしてんなよ〜ァアン??」
「馬鹿ですか」

 絡んできたのは大王だったけど、その隣で鬼男君が一刀両断に言葉を断ち切った。

「あれ?花火は?」
「小野君がイチャイチャしてる間に全部終わらせましたよ」

 河合は水と使用済みの花火が突っ込まれたバケツを持ち上げて見せてきた。

「そっか。じゃぁ、屋敷に戻るか〜。明日昼過ぎに迎えが来るから、準備しててね」

 そんなわけで、僕たちの小旅行は幕を閉じた。




 だけども、そう簡単に問屋は下せませんでした。

 翌日、屋敷のパソコンで撮った写真をみんなで見ていたら芭蕉先生が悲鳴を上げた。

「ほばばばー!!!これっ!これどうやって撮ったの!!?」

 森の中の湖の写真を見て先生は指さした。
 そこに映っているのは僕が撮った湖だけの写真。
 が、水面の上に僕と太子が肩を寄せ合って立っていた。

「イヤイヤイヤイヤヤ!!!!浮いてるって!これ浮いてるから!半透明じゃね!!?撮ってないからこんな写真!!!」
「心霊写真ですね…」

 河合がまじまじとディスプレイを見ながらそう言った。

「れれれれ、冷静になろう!しかもこれ、僕と太子じゃないし!!!」
「ちょ、この服装…」

 太子が驚いたように画面を見つめれば、僕もつられて見てしまった。

 そこに映っていたのは着物よりももっと古い時代の服を着た僕たち。
 マジヤバダケで見た前世の記憶と同じ服。

「平安とか飛鳥とかその辺の時代だねぇ」
「なんか気味悪いし、消す?」
 
 パソコンをいじっていた鬼男君がデリートキーを押そうとした。

「あぁ!!待って!!だめ!印刷する!!!」


 きっと写真の中の僕たちもこうやって、二人の思い出を残したかったんだろうな…。

 チョット待って…
 この二人の霊がこの島に居るってことは…

「太子…もしかして僕たち…」
「言うな妹子…」

 幻覚で見た前世の記憶なんかじゃなくて、本当の心霊現象だったなんて、思い出せば怖くて口には出せなかった。

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