一学期

□琉球
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朝になって、みんなが集合する中、河合と芭蕉先生が少しだけ遅れてきた。
「すいません。芭蕉さんが寝坊しました」
「だって曽良君が…!!」
「あぁん?」
「…ごめんなさい。私が寝坊したの。飛行機の時間大丈夫?」
「飛行機は自家用だから大丈夫!!さぁ空港行くよ!」

そんなわけで、太子が運転する車にぎゅうぎゅうに乗り込んで、一時間ほどかけて空港へ。
自家用ジェットってすごいね!!
検査機を通って一般客とは違うルートで飛行機まで行き、プロペラが回る強風の中、階段を上って機内へ。

「ひっろーい!!」

僕は思わず中に駆け込んだ。
革張りのフッカフカなシートにカバーがかけられて、壁に小さなシャンデリアがかかっている。
靴を脱いで中にあがれば飛行機?ってくらいくつろげる。
カーペットまでフワフワでもーここ、どこ?

離陸してからシートをお互いに向かい合わせてだいたい3時間のフライトをじじぬきやら神経衰弱やら、はたまたUNOで楽しんだ。って言うか芭蕉先生がぶっちぎりで弱すぎるんだから面白かった。それで、負け続けるから、罰ゲームに僕のメイド服を着ることになった。
すると、芭蕉先生は意地でも勝ち抜き、やったやったと嬉涙を浮かべいると、負けた河合に背後から蹴られていた。

「ひ、酷いよ曽良くん」
「あんたが勝つから僕が着る羽目になったじゃないですか」
芭蕉先生は蹴られたお尻をさすりながら後ろにいた河合を涙目で見る。
「えぇっ!?だって私が着たら目に毒だし、なにより曽良君に勝ったんだもん。」
「まぁまぁ、」
「着てみなさいって」

河合を挟むように大王と太子が両脇に立つと、有無をいわさず二人で押さえ込み、河合を着替えさせた。

「み、見るなぁぁぁ!」

キャラ崩壊した河合はそう叫んで飛行機の後部に逃げ込んでしまった。
あんな河合が見られるなんて思わなかったよ。


そんな楽しい飛行時間も終わり、僕たちは大きいとも小さいとも言えないなんて言うかちょうど良い?サイズの離島に着いた。

「あっちぃ!!」

飛行機をおりた鬼男君は開口一番そう言った。
完全にエンジンが切られた飛行機はすでにクーラーの涼しさが消えて蒸し暑くなってきた。

「本当に暑いね」

僕は機内から降りると、降り注ぐ日光に立ち眩んだ。
白い砂浜に反射して眩しい。体にまとわりつくねっとりとした蒸し暑さ。新鮮と言うより、ただひたすら暑い。

「海岸を林方面に抜ければ屋敷があるから歩いていくぞ!」

僕は太子の分の旅行バッグも背負うと、キラキラ目を輝かせた太子の後ろをゾロゾロついていく。
舗装された林の中は案外涼しかった。って言っても汗が引くことはないけど。

10分位歩いてから、たどり着いたのは湖に浮かんでいるように見える二階建ての和風なお屋敷だった。

前面に湖があり、橋で繋がっている。

「何だか旅館みたいですね」

蓮が浮かぶ湖の橋を渡り、中央にあるドアを開けば広々としたエントランス。
畳の上に上品な赤色のカーペットが敷かれてある。
僕たちはそこで靴を脱いで玄関にあがった。
「和室だけどベッドだから。芭蕉さんお布団がよければ出すよ。管理人が。調子丸〜でてこーい」
「いやあんたでてこいって呪文じゃあるまいし。」
「はぁーい。ここです」
「何か出てきちゃったし!?」

奥からきたのは、頭頂部を串団子みたいに三つ編みにしていた男だった。
彼は顔色を青くさせて、どう言うわけか匍匐前進で奥の扉から出てきたんだ。

「すいません、膝の調子が悪くて」
「大丈夫か?」

太子が床に伏せている調子丸さんに声をかけると情けない声で「大丈夫です」と言われていた。
「お部屋の準備は出来ているので好きな場所をお使いください。あ、太子様のお部屋は二階の右から二番目なのでそこ以外でお願いします」


「じゃぁ各自好きな部屋使ってね!妹子、行こう」
「はい!」

僕たちはエントランスの奥にあるお城みたいな左右に分かれている階段を上り、4部屋ある内の右から2番目の部屋に入った。

中はやっぱり和室で、簾が掛かった天蓋つきのキングサイズのベッドが窓側に置かれていた。
それからローテーブルに、階段型のキャビネット。
素材は全部ラタンで、和風と言うより東南アジアな感じがする。

「なんか想像以上におしゃれな和室で吃驚しました」
「いいだろー。見る目があるな妹子。ホリャッパァ!」

太子はすぐさまべッドに飛び込んで大の字にうつぶせた。
僕はバッグを置きどこに座って一息付こうかなと部屋を見回すと、太子にこっちにきんしゃーいと手招きされた。

僕がベッドに近寄ると、太子に腕を引っ張られてフワフワのベッドに倒れ込んだ。
「あっやだぁ!太子!きゃははははっ!擽らないで!」
「おっ?妹子ここが弱いのか?」
「わき腹っやめっ!」
「ほりゃっ」

倒れ込んで抱きしめられたかと思ったらいきなりわき腹をくすぐられ、僕たちは広いベッドの上で転がり合った。
しばらくそうやって遊んでいると、僕達は転がりすぎて、畳の上に落ちてしまった。

「あははははっ」

僕たちはバカみたいだと笑い合うと、起き上がって身だしなみを整えた。

「みんな好きに過ごしてるけど、妹子どうする?」
「島を探検したいです!だって映画のセットみたいな島じゃないですか。何かおもしろそうだし」
「舗装されている道を外れなきゃ迷子にはならないよ」
「あれ?太子は行かないんですか?」
「私は少し調子丸の様子を見てくるよ。あの様子じゃ今夜の食事が大変なことになりそうだ。」
「じゃぁ僕も…」
残ると言おうとしたけど、断られた。ごめんねと言われてしまい、たぶん何を言っても駄目何だという事が伺える。

「みんなの部屋に行って来ます」

そう言って僕は下に下りていく太子を見送って鬼男君達の部屋をノックした。
「島を探検して回るんだけど、一緒に行かない?…よね?二人で楽しんで」
「えっちょっ妹子!?」
二人でドアまで来てくれたけど、何か今からナニかしますって感じだから自分から断った。

部屋の右隣が鬼男君、左隣が河合。
今度は河合の部屋だけども、ノックをしたら疲れ切った芭蕉先生が出てきた。

「何か暑くて疲れちゃって。あ、中に入って入って」

進められるままに中に入ると、完全に和室だった。

桐でできた大きなベッドにタンス。障子の窓。

ローテーブルにはお茶を淹れている河合がいた。まだ少し機嫌が悪いみたい。

「小野君、どうしました?」
「島を探検しようと思って誘いに来た。太子は調子丸さんの様子を見に行っちゃって」
「そうですか。でも芭蕉さんがこんななので、僕も行けないです。すいません」

やっぱりそうか。そうだよな。芭蕉先生もうぐにゃぐにゃのフラフラでベッドに潜り込んでゼェゼェ言っていた。

「じゃぁ僕1人で行ってくる!」

大きな麦わら帽子に、太子がくれた海パンにパーカーを着て、ビーサンに履き替えた。

「行ってきまーす」

と玄関を飛び出た。
橋を渡って、島の外周を歩いていくことにした。
舗装された道を歩けば迷子にならないって言ってたけど、外周だけだったら迷子にはならないだろな。


浜に出ると、僕は海水に足を付けに走った。

「うわっ透明だ!」
透明な海水が砂をさらって押し寄せそして引いていく。

近いところでカラフルな魚も泳いでるし、貝殻も落ちている。

波打ち際を歩いて、いると、海岸の端に来てしまった。砂浜が薄れるとくり抜かれてトンネルみたいになっている岩があって、それの奥はもう切り立った崖だった。
崖とは言っても草が生えていて、たまに岩面が突出している部分あるくらいだ。

結局そのトンネルみたいな大岩を抜けても先に進めそうになかった。


戻ろうと思ったら来た道から。誰かがやってきた。

年代を感じさせる広い鍔の白い帽子に、マキシ丈のリゾートワンピース。
逆行で顔がよく見えなかったけど、黒い長い髪をなびかせこっちへやってきた。

「誰?」

その女の人は僕の目の前に立つと、睨みつけてきた。

「あっ!」

この顔は、昨日店にいた…。

「…あなたのせいよ。あなたのせいなんだから…!!」

そう言われて、いきなり体を突き飛ばされた。

「いっ…」

その衝撃で治りかけていた僕の右足に再び痛みが走り、白い砂浜にしりもちを付いた。

「太子は絶対に渡さない!太子は私の夫になるんだから!!」

僕は開いた口が塞がらないまま彼女を見つめた。


この人が、太子の婚約者…
この人が、高橋妃さん…


僕が越えたくても、越えられない人
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