一学期

□試験
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開けっ放しのカーテンから沢山の日光が入り込み、ハッと目を覚ました。
僕が居たのはベッドの上。背後には暖かい温もり。
首をそらせて後ろを見れば、太子が寝ていた。僕を包み込むように腰に腕を回して寝ている。心なしか顔色が悪い。
てか…
「(帰って来てくれたんだ)」

仕事が終われば帰って来ると言っていた。僕の為に帰って来てくれたって思って良いんだよね。

僕はそんな太子が愛おしくなって、頭を撫でた。
太子は熟睡していて撫でられたことにも気が付いてない。

今何時かな…?

僕が時計を見れば目が飛び出すかと思った。


8時30分!?

朝の全校朝会が始まる時間だ!

「た!太子!遅刻!遅刻する!」
「おっ!?」
「おじゃないですよ!」

僕は太子の腕を振りほどき急いで身支度を整えた。
中間テストが始まると言うのに、遅刻したらテスト受けられないじゃないか!

「ほらっ!太子も制服着て!」
「制服…理事長室…」
「何て面倒なっ!」

僕は太子の腕を引っ張り上げて、バタバタと洗面台へ連れて行き、洗面器に貯めたお湯へ太子の頭を突っ込んだ。

「シンクロっ!死ぬ!死ぬって妹子!」
太子はぐっしょりと顔を濡らしたまま僕に責めよった。

「起きないからですよ!そんなこんなでもうテストが始まるまであと20分ですよ!!」
僕がフェイスタオルをこれまた息を塞ぐように押し付ければ、太子は慌ただしく昨日着ていたスーツを着て髪を縛ると、車の鍵を持った。

「ほらほら、飛ばすから急ぎんしゃ〜い」
「あんたが言うなっ!」

慌ただしくも言い合いながら家を飛び出た。スーツにクローバーが違和感で、何だか滑稽だ。

そんなわけで、ギリギリに教室に着くことが出来た。

何かもうすでに疲れた。

僕が席に着き、机に伏せるが、一瞬で休息が終わった。
チャイムが鳴る直前に監督の先生が来てテスト用紙を配り始めたのだ。
ざわざわと答えになりそうな事を確かめ合っていたざわめきが消えて、紙が配られる音だけに支配された。
何て言うが、この静寂がテストへの緊張感を高めていく。

チャイムが鳴って、一斉にテストがめくられて名前を書いていく音が耳障りだ。

僕はテストに対して余裕と言うわけ出はないが、周りとワンテンポズラしてテストをめくり名前を書いた。
 こうやって僕はゆっくり緊張を解いていく。
昨日はいつの間にか寝ていたけど、普段から勉強は怠らなかった。学校のテスト位ならやっていける。

そんなわけで、僕は最初のテストである古典と数学を無事に突破した。

結局、ずっと教室にいたせいか、学校で太子と合うことが無かった。多分太子も仕事をしているんだろうな。

 テストは午前で終わるので、昼前にホームルームを終わらせると、担任の芭蕉先生に呼ばれた。
 なるべく近寄らないで、一番前に座る河合の横に立つ。そうすれば河合にあの目で見られることはないし、家の事情を話す時に一緒に聞いてもらえる。

「妹ちゃん妹ちゃん。何で今日遅刻したの?太子君もいなかったよね」
「単純に言えば寝坊なんですが…」
「が?」

 何かを含んだ言い方をすれば河合がすぐに食いついて来た。

「うん。河合にも聞いてほしいんだけど、僕の父が海外に転勤になって、昨日から一人暮らしなんです。」
「えぇっ!私担任なのに事後報告!!?」
と、先生はびっくりした後「先生なのに頼られてない…」としょんぼり肩を落としていた。
 そう言うわけではないけど、先生をシカトして話を続けた。

「本当は僕も行く予定だったんですけどやっぱりみんなと離れたくないじゃないですか」
「みんなと言うより太子とでしょう」
「そこ、的確なつっこみしない!」
 僕はぴしゃりと言いつければ河合は黙った。

「なので週末は成田空港に行ったり引っ越しをしてたり結構忙しかったんですよ」
 関西に住む僕らにとって、一日で関東と行き来したのは結構大変なことだ。

「そうか、忙しかったんだねぇ。一人で大丈夫なの?何かあったら僕たちの家に来てね。ねぇ?曽良君?」

 芭蕉先生は河合にそう問いかけるとうなずいた。

「お茶でもお菓子でも恥ずかしいものでも芭蕉さんが何でも出すので何かあったら家に来て寛いでください」
「えぇ、私が出すの?」
「ありがとう。まだこのこと鬼男君にも話してないから放課後帰る時にでも話そうかと思って…あーってかお腹すいた」
「じゃぁ、まだ学校に残るから先に帰っててね」

 そう言って芭蕉先生は教室を出て行った。

 初日はだいたいそんな感じだ。
ただダラダラとテスト期間の話をしてもほとんど毎日同じ事なので、ここでまとめておきます。
まず僕達は金曜まできっちりみっしり詰め込まれた中間テストを無事に受け終わりました。
太子はよほど忙しいらしく、いつも僕が寝た後に帰って来るみたいで朝のバタバタした時間でちょっとの会話を交わす位しか時間がない。
ただ、出掛け前に今日の充電と言って僕をぎゅっと抱きしめた。
その力強さとか暖かさとかは幸せで始めはされるがままだったけど、僕も太子の背中をキュッと握るようになった。
僕は太子の秘書になるって目標が出来た今、まずは太子と同じ土俵に立つ為に勉強ができる大学に入ることを第1目標としてテスト勉強に励んだ。
太子は凡人がついていけないほど頭が良すぎる。多分大学を卒業しても同じ場所にはたどり着けない。だけど、秘書になるからには太子と同じ場所に立つことに絶対なる。そこに少しでも近付くためには、やっぱり今の勉強を頑張るしかないんだ。
そんな訳で、ホームシックになる暇もなくあっと言う間に金曜日。


テストに解放されて僕達はやっと肩の荷が降りた。何だか悲惨な空気だった教室にも穏やかな初夏の香りが漂っていはじめた。

「やっと終わったね」
僕はホームルームを終えると真っ先に一番前に座る河合に話しかける。

「そうですね」

と、頷くが、いつも以上に機嫌悪そうな表情をされた。

「どうしたの?嬉しくなさそうだよ」
「寝ていないだけです」
「何で?」
「僕は天才じゃありません。テスト勉強してたからに決まっているでしょう」

意外だった。河合はちょっと復習したら良さそうなのに、顔色が悪くなるほど寝ないで勉強してたんだ。

「どうしてそこまでして勉強するの?」
「まぁ芭蕉さんに世話になってる以上お金かけたくないし、奨学金とか国立の大学目指すとか色々ありますね。小野君は?」

河合はやっぱり頭良いな。ちゃんと先を見据えて勉強してる。それに比べて僕はただやりなさいと言われたままに勉強してきただけだ。今は違うけど。


「太子の秘書になる為…かな?」
「太子の秘書?」
「うん。将来ね、僕は太子の秘書になりたいんだ。誰にも負けないような世界に通用する秘書!だから、勉強して同じ土台に立つことが出きるくらいにはなりたいなって…最近決まった。」
「最近ですか」
「うん。それまで目標とか無くて、親に言われるままに勉強してきたから」

そんな話をしていると、廊下から騒がしい二人組の声が聞こえてきた。
 大王と鬼男君がやって来たんだ。

「よー!休みぶり!!」

セーラー服の大王がにこやかに、いや、きもやかに手を上げながらこっちへやって来る。


「変態め」

 河合が一言そう言うとがーんと言う効果音が付きそうなほどショックを受けていた。
学校では関わりたくない人ナンバーワンを維持しているだけあって、大王が来るとクラスメートは興味を向けながらも後ろの方に固まってしまった。

「(アホモと関わるとろくな事ないからサッサと行こうぜ )」

何て話が聞こえてきて、僕たちは顔を見合わせた。もう、慣れたよその扱い…。
 ただ、こそこそ言われたのが気に入らなかったらしい大王はぴくりと青筋を浮かべた。

「見えないとこで言われたり分からないように言うのは良いけど、聞こえるように言ってしまえば陰口だ。気に入らないねぇ」
と、硬直している奴らに顔を向けた。
 前の大王が舞い降りてきたような、そんな怖さがある。

 そんな時大王の顔を見てブルブル震えるヒュースケン君がやってきた。

「どうしたの?」
 僕が声をかければ多少安心したようで、大王を避けながらこっちへやってきた。

「縁間先輩を呼びに来ました。図書委員で芭蕉先生が連れて来てって言ったから」
「え、大王って図書委員?」

 僕が大王にそう言えば、大王は「あー!忘れてた!」と、さっきまでの冷たい空気はどこへやらいつもの調子に戻った。

「絶対、委員会に入らないといけないだろ?それで芭蕉さんが私の所においでって言ったから。芭蕉さんなら俺、信頼してるし」
 花が咲いたようにニコリと笑った。
 そう言うことか。
 ヒュースケン君は同じ人?と首を傾けていたので頷いておいた。

「じゃ、俺行ってくる!ヒュー助!行くよ」
「えと、あ、はい!小野、河合、鬼塚(←鬼男の本名)Goeden dag!!」
「ばいばーい」

 ヒュースケン君は大王に連れて行かれ、僕たちは小さく手を振った。
 なんだか慌ただしい一瞬だったが、クラスメートたちも安心したようでちらちら僕らを見ながら帰って行く。

 太子と大王のお陰で僕らは良い見世物状態だ。みんなが飽きるまでしばらく続きそうだけど、これはもう関わってしまったんだから仕方がない。

「っていうか、鬼男君って鬼塚って苗字だったんだ。あれ?そう言えばフルネーム知らないかも」
「えぇ。今更??」

 落胆したように眉を寄せる。

「俺の本名今更名乗るの何だか気恥かしいなぁ」

 下駄箱に向かいながら話せば、鬼男君は顔を褐色の肌を赤く染めていた。
 靴を変えて、校門に向かいながら僕たちは鬼男君の話を聞いた。

 本名は鬼塚キリオっていうらしい。前にも言ったけど、どこかの国のクオーターで、その影響で名前が日本人でも海外でも通用するような名前になったらしい。
 だけど見た目も名前も外国人っぽくて嫌だと言った時に、幼馴染である大王がそうあだ名をつけてくれたそうだ。いつの間にか本名のような定着感があるけど、まぁ、さすがに本名で鬼男は無いか。

「何だか意外。そう言えば僕たちってあんまりお互いのこと知らないよね。」

 僕がふとそうつぶやけば、彼らは顔を見合せて、うなづいた。
 これからマクドに行って(僕らは関西に住んでいる設定なのであえてそう呼ぼうと思います)昼御飯にするんだけど、話題の中心はその話になりそうだ。


 校門を出て、目的の場所に着き、トレーに乗せられたハンバーガーやらポテトやらを持って席の一角に座った。
「ねぇ、なんで河合は芭蕉先生と住んでるの?」

 そんなわけで予定どおり僕たちは食べながらお互いの身の上話を話すことになった。
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