一学期

□別れ
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ゴールデンウイークが終わった週末。僕と太子は成田空港にいた。

「じゃぁ母さん達、行くね」
「うん。わがまま聞いてくれてありがとう」

僕は母さんと軽くキュッと抱き合った。だけど父さんは僕のことを見てくれない。

「太子君。妹子の事よろしくね」
「任せてください!丸ごと面倒見ますから」
「妹子にこれ以上手を出したら許さんからな!」

どうやら父さんは僕ではなく太子に対してご立腹のようだ。まぁ、手塩にかけた息子を持って行ったのが男だってんだから、気を許すはず無いよね。まぁ、これ以上どこを手出しするんだって話だけど。

 どうやら父さんに挑発的な太子は僕と同じことを思ったらしく、
「出すとこ全部出し尽くしましたから」と茶化すように言った。
「き、貴様っ!」
 頭から湯気が出るほど真っ赤になった父さんは母さんに腕を組まれ、「行きますよ」と引っ張られていった。

「気をつけてね!」
 僕は二人に向かって大きく手を振った。
そして、母さん達はゲートをくぐり抜け行ってしまった。ちなみに今回は2年したら戻って来るそうだ。
昨日は卒業式にはちゃんと来るからと約束したし、警察沙汰を絶対に起こさないことも約束した。

僕達は母さん達が乗った飛行機を屋上から見送ってから羽田に向かった。

飛行機に乗って、車に乗って、長い時間をかけて僕たちは街に戻ってきた。
「移動ばっかりで疲れたな〜」
「あー。でも今日から一人暮らしかと思うとワクワクしますよ」

太子が用意してくれたワンルームのマンション。
僕がはじめて入ったときにはすでに家具が置かれていた。
勉強机なんかはそのまま家から持ってきたけど、ベッドはフッカフカなセミダブルのローベッドがドーンと置かれていた。


「きゃーフッカフカ!」
家につくや否や、僕は馬鹿みたいにベッドへ飛び込み、大の字に寝転んだ。
「こんなに大きなベッドありがとうございます!」
「え、私も寝るから何だけど」
「は?」

僕がダイブした隣に太子が寝転んだ。そして、今にも襲わんとばかりに覆い被さるように右腕で僕をぎゅっと抱きしめた。

「太子、寝るって…?」
開いた左手は僕の手と指を絡ませあいながら遊ばせている。

「私もここに住む」
「えっ!えぇ!?」

僕の思考回路はショート寸前?いやいや、違う。違わないんだけど、何か違う。
僕は太子から一瞬身を離すがすぐに引き戻され、見つめ合った。


「私が一から妹子の面倒見てあげる。家族と離れてきっとホームシックになると思う。でも私がずっとそばにいるから」
両腕の中に閉じこめられると、体がポカポカ暖かくなって、僕は太子の背中にぎゅっと腕を回した。

「これからずっとこうして居られるなんて、ホントに嬉しい」
「妹子大好き。あ!でも仕事が残ってて帰れないんだっ!」

ずもーんと重たく暗い影が指しおもしろいほど落ち込んでいた。

「どうしたんですか?」
「私今まで経営サボってたから仕事多くて、父の秘書からつつかれてんだよ〜。」
「仕事してくださいよ」

僕は河合みたいに太子の頭にスコッと手刀を下ろした。

「断罪チョップ禁止!」
「別に痛くは無いでしょうに」

腕を掴まれれば、太子は目をバッテンにして講義してきた。ちなみに僕は人が本当に目をバツにしている瞬間を見たことがある。マンガだけじゃないんだと思いつつも面白くて爆笑したっけ。笑われた本人は必死だったけど。
太子も今まさにそんな顔していたから笑ってみせれば、何だよ〜と口を尖らせた。
「ね、妹子真面目に考えて欲しい。将来、本当に私の秘書になってくれないか?もし、他にやりたい仕事があるなら…諦めるけど」

いつになくまじめな顔で僕を見つめた。 真っ黒の瞳が僕の視線を引き込んでしまうほど印象的な漆黒の瞳。

「僕は将来の事なんて考えたことなくて…やりたいことなんてなくて…」
「え?じゃぁどうするつもりだったの??」

僕は起き上がり、ベッドに腰掛けた。

「僕は父さんの言うままの大学に入って言うままの企業にはいるんだって思ってました。だから今回初めて反抗したし、初めてこれからの自分を考えることになったんです」

僕がそう言えば、太子はそっか…と呟いた。
「太子は?太子は親の言う通りに人生進んで、楽しい?」

僕がそう聞けば、太子はニコニコ笑って頷いた。
「父を継ぐのは私自身の考えだからね。父はまだ一部の事でしか会社を大きく出来てない。私は世界を変えるほどの企業に成長させたいんだ。でもお金がたくさん使われて、汚い世界をもっと知ることになれば必ず道を間違える。私ははっきり違うと言ってくれる妹子が秘書になってほしい。だから、考えてほしい。」
「考えなくても、僕しかいないでしょう。あんたにちゃんと仕事させたりはっきりものが言えるのは」
「それじゃぁ…!!」
「僕は貴方の秘書になる。誰にも父さんにも負けないようなやり手の秘書になるよ」

 僕は太子を見つめ直した。
太子はウザイくらいキラキラした瞳とオーラを振りまきながら抱きついた。

「妹子!好きっ大好き!!」
「カレー臭い。顔ウザい(笑)」

でもそのすべてが愛おしい。調子にのるから絶対言わないけど。

「さーて!妹子も充電出来たし。私は学校に戻るよ」

ベッドから立ち上がり、ハンガーに書けていたスーツのジャケットを腕にかけた。

「学校…?」
てっきり今夜は泊まって行くのかと思ったから、拍子抜けした。

「ん。テスト期間中、私は理事の仕事をやらないといけないんだよ」
「じゃぁテストは?」

僕は頭がこんがらがってきた。確かに太子は学生でありながらも理事長代理を務めている。僕が太子の事で頭を悩ませていると、太子が申し訳なさそうに眉根を寄せた。

「あー妹子に言いそびれてたっけ?」
「何がですか?」

「うん。私正式な生徒じゃないんだ」
「え?」

あれ?でも前に警察には普段生徒として授業をって…

「私は二年飛鳥組で教員視察をしてるんだ。だから普段は生徒と一緒に授業を受けている。納得いった?」

僕は黙って頷いた。
なるほど。そうゆう事か。太子は生徒に紛れて学校生活を視察してるって事か。

「それ、先生達以外に誰が知ってんの??」
「…知らないよ。だって言ったら視察にならないじゃないか。生徒がどう思って学校を過ごしてるのか…私はクラスで浮いてるけど、教室にいればみんなの話が耳に入る。不思議なことに、私は10人位の話を一度に聞くことができるんだ。」

まるで本物の聖徳太子じゃないか。
僕はおかしくて、太子にクスリと笑ってみせた。

「じゃぁ僕と太子の秘密ですね。」
「そうだね。」

太子は僕の頭を愛おしそうに撫でた。

「太子、僕夜中は勉強してるから、仕事に一段落ついたら別に帰ってきても良いですからね。」
僕がそう言えば、太子は残念そうにした。
「帰ってこれるかなぁ?」

そう言われて、僕は悲しくなるのがわかった。そう言われると寂しいじゃないか!

顔にでていたのか、太子は僕を見て吹き出すとケラケラ笑った。

「妹子があんまりにもあからさまに悲しむからっ…可笑しくて。」
「からかったんですか!?」
「ごめんごめん。頑張って帰ってくるよ。」
「太子のバカ」
「バカって言うなー。理事長だーこらぁー」


お約束のような一悶着を終えれば、太子は家を出て夜中だと言うのに学校に戻ってしまった。
急に独りになって、テレビもついてない静かな部屋に取り残された僕。

精一杯の背伸びをして勉強に取りかかった。

明日は古典と数学だ。
とりあえず古典からやって行こうかな!

僕は勉強のお供であるクリスタルカイザーを冷蔵庫からとりだし、机に向かって気合いを入れた。

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