一学期
□無問題
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そして翌朝。
気まずい思いしながらも僕はそわそわしながら昼が来るのを待った。
「落ち着かないか」
「だー…だって…」
僕はこの気持ちを言葉にできず、開いた口をパクパクさせて、声が出ない事に肩を落とした。
なんか緊張する。
太子なら説得できるかもしれないし、やっぱり無理かもとか希望と絶望が心中を渦巻いた。
「母さんは?母さんはどうおもってるの?
「えっ私!?」
突然話を振られた母さんはびっくりしたようでお茶を軽く霧吹いていた。
大丈夫?
「母さんはね〜妹子が今を大事にしたいって言ってるから日本に残って良いと思うんだけど」
「そんな甘いことを言うから妹子がこうなるんだ」
「母さんは妹子の自由化を求めます」
「自由化って…」
母さんと父さんを見ていると、どうして結婚したんだろうと疑問に思うよ。
「だいたい、その男が妹子を日本に残るように説得して何になると言うんだ。妹子にはどう考えても私の考える人生を送ることが最上級の幸せだと言うのに!」
この人はいつもこうだ。僕を形にはめたがる。そして僕の幸せとか言ってるけど、自分の思い通りに動かしたいだけなんだ。多少の自由を認めても、本当にやりたいことはさせてくれない。
昔からそう。型通りの優等生、型通りの日常。父さんは自分が優秀だからそうさせたがる…。
はぁ。やんなっちゃう。
父さんの発言にため息を漏らす時間は午前11時。その時、車が止まる音がしてインターフォンが鳴った。
きっ、来た!!
「あら、太子君いらっしゃい!」
玄関を開けに行った母さんと灰色の綺麗なスーツを着ている太子。
って言うか誰!?
相変わらず猫かぶり笑顔を浮かべていた。スーツかっけぇ。
でも、頭にあのゴムはしてなかったし、完全にオールバックで髪をまとめている。
「はじめましてお父様。日和学園の理事長代理をしております、厩戸太子と申します」
そう言って太子は父さんに丁寧に頭を下げて名刺を差し出した。
「妹子の父です。どうぞおかけください」
父さんは太子に座ることを進め、太子は失礼致しますと言って正座をした。
「単刀直入に言おう。薄気味悪い笑顔は止めたまえ。息子の話だ、何を考えているか聞かせてもらおう。」
すると太子は笑顔を止めてニヤリと笑った
「私は将来的に理事だけでなく、父の会社も引き継ぐ立場にあります。そこで、私は妹子君を専属の秘書になってもらおうと思いました。彼にはゆくゆく私の秘書としての教育を受けてもらおうと。そのためには彼を私の側に置いておく必要があります。」
「君の会社は私の会社と取引のある会社だ。優秀な秘書位、学生である妹子じゃなくても、いくらだって雇えるじゃないか」
太子の作り話は良くできてるけど、父さんの話ももっともだ。
僕じゃなくても良いんだから。
「あなたは、信じることが難しい雇われ秘書と一緒に仕事ができますか?」
「何?」
父さんの顔が般若みたいに歪んだのを見て、僕は息子心に恐怖心が沸き立つが、太子は平然としていた。
「会社側で雇った秘書が、融通が効かないロボットみたいな人物だったり、他社のスパイだったり、敵が多いこの役職で人事課に雇われた秘書と一緒に仕事ができますか?勿論会社の人間は信用しています。が、私に近くなればなる程、外部の人間よりお互いを知っている人間の方がいい。」
「っ…」
「私は私だけの信頼置ける人物が欲しい。それが妹子君です。学年でも次席の成績を持ち、生活態度も健康状態も良好。何より、彼は心から私を信頼しているし、私も心から信頼を置いています。私が間違えれば違うとはっきり言ってくれるし…他の者なら媚を売ってへらへらしてるだけですよ。今から経財学や秘書学を学ばせれば充分に有能な秘書になります。何より、お父上のあなた自身も有能な秘書をやっていらっしゃる。」
僕は今の部分は太子の本音である事に期待した。
僕は太子に信頼されている。
嬉しすぎて、客間の入り口で座っていた僕はこっそり目頭を熱くした。
こんなに、こんなに僕を思ってくれてる人と離れるなんて絶対やだ。
「次席だと?妹子、この学校で成績が2番目でだと?」
「いや、何て言うか、根っからの天才がクラスに…」
僕は肩身を縮めて父さんと目が合わないようにそう言った。
太子は一瞬しまったと眉を分からないように寄せるが、すぐに言い返した。
「その主席に秘書をやらせればいい」
「いえ、その…彼は一緒に仕事をしていくにはかなり性格が歪みきっていて、秘書向けじゃないんですよ。」
うーん。間違いないのか?
そこで僕は居ても立っていられなくて、太子の隣に座り込み頭を下げた。
「僕は,僕はこの人の側に居たいんです!父さん!僕を日本に残してください!」
「妹子…」
「まぁお前達の言い分はわかった。」
父さんは納得したように体を反らせた。
「じゃ、じゃぁ!!」
「仮に残ったとして、住む場所はどうするんだ。お前の為に新しく部屋を用意するにもだいぶ金がかかる。生活費光熱費、家賃。独りで暮らして行くには何より金がかかるんだ。お前のわがままで日本に残ると言うなら、私は厳しくいく。金は出さない。」
そう言うことで僕も太子もあきらめるだろうと思ったんだろう。
実際そうだ。僕はどのくらいのお金がかかるのか、バイトをやっても生活できるのか何て、考えても想像できない。
「私が持っているマンションの一室を妹子にあげます。あと、生活費もバイトをさせましょう。経営している店で雇わせます。どうですか?」
「どうですかって…一時的な事でそんな事まで何故そうする?」
拳を握った父さんは震える声でつぶやいた。
「一時的ではありません。私達がお互いに必要としあっているからですよ。お父様。…妹子は私が頂きます」
太子は父さんに手を伸ばした。
「フンッ、まるで娘をもらいに来た男のような言葉だな。」
父さんはその手をぎゅっと握った。
「私はそのつもりでしたが、はっきり言いましょうか?」
「はぁっ!?」
握手をしあっていた手を振りほどき、父さんは目を点にさせた。
「妹子と私は契りを交わした仲でございます。」
「た、太子!?」
「妹子…これはどういう…」
「それでは本日はお暇いたします。またね妹子」
再び気味の悪い猫かぶり笑顔を浮かべ颯爽と家を出て行った。
信じられない…でもプロポーズを受けたみたいでなんだか嬉しくて心がくすぐったい。
「妹子…来なさい。」
ひとりでに二へ二へ笑っていると、強張った声の父さんがさっきまで太子が座っていた場所へ座らせた。
「どういう事だか、理解に苦しむが…妹子も厩戸さんも間違いなく男で、契りを交わした…?つまり…」
「僕は太子を愛しています。他の男には興味が有りませんが、いわゆる男色家です」
僕ははっきり言ってやった。海外に転勤はこの人のせいじゃない。でも一緒にいることでレールに乗った人生を送るだなんて納得いかない。
僕はそんな反発心を含めてちゃんと言ったんだ。
「お前のような恥曝し…一緒に来んで良い…。」
言ってることはきついけど、反らされた顔からは素直になれてないオーラが出ていた。
隠そうとしても無駄だよ。僕も同じ事よくやるから。
「ありがとう。父さん…」
「ゴールデンウイークを開けた週末には向こうへ行く。お前も準備をする事だな」
僕は頷いて早速準備に取りかかった。
良かった。太子ありがとう本当にありがとう…。
僕は部屋のドアを締め、お礼を言おうと携帯を開いた。
そこには昨日ランドで撮った僕たちの写メ。見てるだけでも幸せになって電話をする前にニヨニヨと笑いが止まらなかった。