一学期

□問題
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夜の10時。太子に送ってもらい家についた。
 太子が運転していた車は家の前に止まっり暗い住宅地の中、黒い車体は闇にまぎれる。

「何だか離れるの寂しくなるな」
「そうですね。」
「何だか妹子が素直だと怖いよ」
「そうですか?帰りますよ」
「だー!!待って待って!!!」

 そう言って太子は、ドアを開けて行こうとする僕の腕を引っ張った。
 そして、ちゅうっとキスをする。
 僕たちは暗い車の中でぎゅっと抱き合って別れを惜しんだ。残りのゴールデンウィークは僕は勉強、太子は理事の仕事をしなければならないらしい。

「もう10時だ。帰らなきゃ…」

 絡めあっていた指をそっと離そうとするが、太子は許してくれなくて、再び握り合った。

「玄関まで送るな」
「うん。」

 もう一回。最後のキスをして僕たちは車を降りた。両手に荷物だし、鍵も掛っていたのでインターホンを鳴らす。

「ただいまー」

 すると、母さんが待ってましたとばかりに玄関を開けて出てきてくれた。

「あら、ふたりともお帰り!」
「遅くまで預かってすいませんでした」
「やぁね〜。女の子じゃあるまいし」
「私にとっては女の子とおなじですから」
「やだぁ、太子君ってば!の・ろ・け!!」
「ちょっと母さん!!てか太子!何言ってるんですか!!」

太子は僕の荷物を持ってくれて、玄関マットの上に置いてくれた。

「じゃぁ太子!また学校で!」
「次はテストだからしっかり勉強しろよー」

そう言って、車を走らせ帰っていった。


見送った後、母さんにお土産を渡し、中に入ると、単身赴任中の父さんがリビングでくつろいでいた。

「父さん!お帰り!いつかえってきてたの!?」
「ただいま妹子!東京に行っていたらしいな」

僕は父さんと久々に会えたのがうれしくて、荷物を放り出して父さんに飛びついた。

「話があるんだ。」

抱き止めた父さんは折角帰ってきたばかりだというのに、神妙な顔つきだった。
何だか嫌な予感を騒ぎ立て、心臓がドクドクと早く脈打った。何を言われるんだろう。母さんを見るがとても悲しんでいるみたいだ。


「海外に引っ越す事になった。妹子には残念だけど、転校を…」

転校…?海外…?それってもうみんなに、太子に会えなくなるって事だよね。

「い、嫌だ!僕は行きたくない!行きたくないよ!!」

「どうした妹子?何かあるのか?友達なら向こうでまた作れば良いじゃないか。妹子の学力なら向こうのキングスクールでもやっていけるし…何より視野が広がるぞ」

どうしてこの人は…そんな事を。
大人ってのは僕たちにとって『今』が一番大切なのを忘れてる。だから軽々しくそんな事が言えるんだ。
確かに年齢を重ねるごとに長く付き合う友達って一握りになって、また新しい友達ができていくんだと思う。父さんや母さん見てればその位わかるけど…

「今が一番大切な時を過ごしてるんだ!僕は学校を、今を変えてしまう転校何てやりたくないよ!それに海外!?急過ぎるよ!!」

僕は泣いてしまい、服で顔をこすった。
「妹子!いつからそんな聞き分けの無い子になったんだ!」
「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!転校何てしない!あの人と離れたくないんだ…僕は一人でこっちに残る!この家で一人になったって良いんだから!」
「無理だ。この家は売りに出す。」

大人はいつだって勝手だ。

「父さんの馬鹿ぁ!!」

僕は荷物を持って部屋に引きこもった。

「妹子!」

ベッドに伏せ、携帯を握って目をつぶる。さっきまであんなに楽しかったのに気分最悪だよ。

 携帯を見つめさっき別れたばっかりの太子に電話をした。

『およ?妹子?ちょっと待って車とめるから』

 太子はそう言って、しばらくしてから電話に出てくれた。

「ック…ヒック…太子」
『え!?な、泣いてる!?そんなに私と離れたくなかったの?』
「違う」
「即答かよ!違うのかよ!何があったんだ?」
「ひっ…引っ越しするって…」
『え?』
「父さんが…海外に引っ越すって…転校するって…」

 すると太子は黙り込んでしまった。
 そりゃそうだ。だってどうすることもできないんだもん。

「ごめん…どうにもできないのにね…」
『親っていつだって勝手だもんな。わかるよ。…なぁ、妹子、私は離れたくない。』
「僕もだよ。あたりまえじゃないですか!」
『うん。だからね…私も一緒に説得する』
「で、でも太子は理事の仕事が…」
『そんなもの後からやればいい。私は妹子が泣いて困ってるのを後回しにできるほど器用じゃないから。大丈夫。私に任せてよ』
「うん…ありがとうございます」
『明日、行くね。』
「うん。わかった。」
『でも、私は妹子の保護者に十分なりえる人物として行くから。』
「保護者…?」
『うん。保護者。嫌かもしれないけど、妹子のお父さんとお母さんを説得するにはどうやら私の身分を少し利用しないといけないと思うし』
「太子ならなんだって良い。一緒に居れるなら何だっていいんだから」
『妹子チョット泣きやんだね。今日はもうゆっくり休んで。明日の昼頃に向かうよ』

 そう言うと僕たちは電話を切った。


 僕は気まずかったけどリビングに戻ってみた。
 父さんと母さんは向き合って何かを話しているみたいで中に入りにくかった。そんなわけで、リビングのドアから中の様子をうかがうことにする。

「妹子にだって別れがたい人がいるんだから、あの態度は当然です」
「別れがたい?妹子は将来有望だったのに…規律の緩い学校に転校させたのが間違いだった。一時の気の迷いで恋人を作るなんて」
「気の迷いじゃありませんよ。相手の子はきちんと妹子の事も考えてくれてます」

 そんな話を扉越しに聞いて、僕は僕や太子の悪口を言われている気分になった。あんまりだよ。
 全部、全部僕が自分で決めたことなのに。
 母さんは僕たちの事知ってるからちゃんと抗議してくれてるけど…。
 任せちゃだめだ。だって、僕のことだもん。


「父さん!明日、会ってほしい人がいます」

 僕はリビングのドアを開けて二人の話に割って入った。

「なんだ?お前の恋人か?二人で私を説得しようとでもいうのか?」
「はい。そうです。でも、恋人ではありません。でも、僕とずっと一緒に居たいと言ってくれた大切な人です」

 父さんは眉根を寄せた。

「どこのどいつだ?妹子に変な事を吹き込んだのは」

「厩戸太子理事長です」
 太子は保護者に十分なりえる人物としてくると言っていた。ってことは、理事長としてここに来るんだと思う。

「理事長代理…?」
「理事長代理です」
「何故そんな人物が妹子に?」
「だから、明日全部話してくれるんです。お願い、会ってください」
「…話を聞くだけだからな。納得できる理由がなければ理事長だろうがなんだろうが追い返す。良いな?」
「…ありがとう!!」

 何だか少しだけすっきりした。
 太子、後は貴方にかかってるので、お願いします。
 どうか、説得して…。

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