一学期
□旅行
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「きゃーほうっ!!!」
モノレールを飛び出し、奇声をあげてはしゃぎまくる大王。一緒にいる僕まで恥ずかしくなってきた。
っていうか、スカート履いてんじゃないよ。
突っ込みどころが多すぎて何が何だかもうわからなくなってきた!!けど、今、何が起こっているのか説明します!
ゴールデンウィークを利用して、僕たちは遊園地にやってきました。
何と、倭国で一番有名なあのランドです!
日帰りは時間的にきついから、パーク内のホテルに泊まりがけという、ちょっとリッチなランド旅行。
ちなみに、費用はもう一人の変態が出してくれました。
「だって〜私も妹子とホテルでいちゃいちゃしたかったんだもん」
「目的が違う!!!!」
妹子はお決まりになったかのように太子を蹴り飛ばした。
「パレード!!!」
と、謎の叫び声をあげて地面に突き刺さる。てゆうか突き刺さるとこ久々にみた気がする。
そんな彼らをほっとき、後ろをついてくるのは河合の荷物まで持たされている芭蕉先生。一瞬どちらが上の立場なのか忘れてしまいそうになる。
「私達まで一緒に来ちゃってなんだか悪いね。ねぇ、曽良君」
「別にいいでしょう。出すもん出すって言ってるんだし。それより、芭蕉さんこそ変な句を読まないでくださいよ。訴えられますから」
「読まないよ!」
「先生遠慮しないで!この前巻き込んだお詫びも含めてるんだし!!」
太子がそう言って、芭蕉先生は申し訳なさそうに笑っていた。
そして発案者なだけあって、真っ先にやりたいことを言った。
「私ね、写真をとられるアトラクション乗りたい!!!」
一日目はみんなで乗れるアトラクションに乗ることに、明日は帰りの時間までそれぞれ廻ることになっている。
写真だと思い出に残るし、誰もが「良いね」という話になった。
チケットを買って、ワクワクしながらゲートを潜れば目の前には別世界が広がり、海外の街並みを模したショップが立ち並び、人が込み合っている。
キラキラと輝くお城や、浮かぶ風船。
年甲斐もなくわくわくして来るのはやっぱり夢の国に一片の隙がないからなんだろうな。
「きゃー!曽良君曽良君!!何あれ可愛いね!!」
そして大王よりもはしゃいでいたのは芭蕉先生だった。
手を振りながら子供たちと写真をとっているキャラクターに向かって目を輝かせる姿に何だか心がほっこりとなってくる。
あっちに行ったりこっちに行ったり、目が離せない芭蕉先生に、楽しんでいるのか楽しんでいないのか、よく分からない河合は僕らの後ろを付いてくる。
「芭蕉さん。人一倍はしゃいでどうするんですか」
「だってだって、私こういう場所初めてだから!何だか楽しくて!!」
冷めた河合とはしゃぐ先生を見ていると、なんだか反抗期の息子と、一生懸命親子関係の修復を図るお父さんのように見えてきた。
「写真が撮れるってのは…あぁ、ここですね。奥じゃないですか」
太子と妹子は目的の場所を探す為に顔を寄せ合ってマップを覗き込んでいる。確認が終わればまた地図を丁寧に折りたたみ、バックに入れていた。
僕たちは目的の場所にたどり着くまでに、あのアトラクションも楽しそうだとか、明日ここに行こうよなどとそれぞれ話している。
それにしても妹子と太子は人の視線をかっさらっていく。美男美女って感じだしな。言ったら妹子怒るけど。
そして大王もいろんな意味で視線を集めていた。
「あれ?芭蕉さんは??」
河合の”芭蕉さん”がうつったのか、大王はそう言った。
僕たちがあっち見こっち見をしているうちに、ついてきてると思った芭蕉先生がいなくなっていた。
「ったく馬鹿じじぃが…」
河合…一緒にいたんじゃないの?
そう突っ込みたいけど、あまりにも夢の国に似つかわしくない河合の辛辣な表情に何も言えなくなってしまった。
楽しくないの?と妹子は聞くが、馬鹿男が消えるまでは楽しんでいましたと言っていた。
「そう言えば、なんかあれが欲しいとか言ってて、どこかに行ってたっけ」
「止めろよ!!!馬鹿がっ!」
大王が思い出すように上向き加減でそう言うので僕はすかさず爪を顔に突き立てた。
「痛い痛い!」
「うわー団結力ねぇ〜。」
妹子が正論を言うが、大王も河合も聞く耳を持っていない。
「電話しますから、ちょっと待っててください」
そうして電話をかける河合。すぐにコールに出たようで河合は開口一番こう言った。
「早く来ないとコテンパンにしますよ」
いや!!それは無理だろう!!
すると、なんだかたくさんのものを抱えた芭蕉先生がワタワタ走ってやってきた。偉いね、ちゃんと走ってきたんだね。
「この馬男がっ!!」
馬鹿でさえなくなったよ…
ケツを蹴られておもしろい方向に体が曲がっていた。
「ひひぃーん!ごめんごめん。ほら、すれ違う人みんなこれ頭に付けてたから」
そう言って差し出したのは、人気キャラクターの耳なんかが付いているヘッドアクセサリ。
「きゃー!俺ミニーさん!!断固ミニーさん!!」
そして大王はあの、謎の帽子を取ってカチューシャを装着した。
に、似合いすぎだろ!!!
かお、顔が自然と緩んじゃうんですけど。まさか素面時に一瞬でも大王にときめいてしまう何て思わなかった。
僕が大王に見惚れている背後では妹子と太子が芭蕉先生から青とピンクの耳を受け取っている。
「私達はどう考えてもこの青とピンクのオハナ宇宙人だよね」
「色的にですね」
妹子、お前もすごく似合ってるよ…なんてことは口が裂けても絶対言えないけど、色的にって何だ?それは太子の青ジャージの話なのか??オハナ宇宙人ってどこからもつっこめやしねぇよ。
っていうか、なんで太子はこんなところに来てまで青いジャージを着ているんだ?妹子、合わせて赤いの着てこなくて…あぁ、着せられたのね…。
「じゃぁ、私達これね」
芭蕉さんは残った熊の耳を頭に着ける。
「嫌です」
河合は受け取る前から断固拒否。心底馬鹿にした目つきで頭につけるそれを見た。
「良いじゃん、河合。せっかく着けてほしくて買ってきたんだから」
即答する河合に、僕は促した。まぁ、彼の性格上、これつけたがらないのわかる気がするけど。
「松尾芭しょんぼり」
先生はとても落ち込んで着流しをキュッと握った。て言うか着流し着てたのか。
服装だけでも僕らだいぶ目立つじゃないか。
若干引いていると、太子と大王が暴れ出した。
「ほらー!河合もつけちゃえ!!」
と、太子が後ろから押さえこみ、
「えっ…ちょっと、嫌…やめなさい!!」
「いやだよ〜」
そして大王が河合の頭にオレンジ色のトラ耳をつけた。
「似あわねぇ!!!」
つけた本人たちが河合を見て指をさし大爆笑している。
本人はプルプル震えて相当怒っているようだ。
「曽良君、かわいいね」
なのに、また蹴られるんじゃないの!?と言いたくなるようなこと芭蕉先生は言ってニコリと微笑んだ。珍しい事にあの河合を丸めこんでしまっていた。
すっかり毒気が抜かれてしまった河合は、顔を真っ赤にしていきますよと僕たちに背を向けてしまった。
おぉ。なんだ、この河合。はじめて見た。
「あ!待ってよ曽良君」
芭蕉さんの黄色いクマの耳もなんでか似合うんだ。
さすが学園のフェアリーと呼ばれるだけあるな。