一学期
□日常
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話の後半に若干裏要素があります。
学校帰り、雑貨屋の窓からクローバーのアクセサリーがついた髪ゴムが目に入り、その雑貨屋へ足を運んだ。
全体的に木目が見えるログハウスみたいな雑貨屋で、素朴と言う印象がぴったりな店だった。
ていうか、女の子ばっかりいて、入ってから後悔したけど、店員が男っぽいのですぐに気にならなくなった。
僕は沢山のヘアアクセサリーが陳列する棚を見つめた。
光沢のあるプラスチック?より少し高級感のある素材でできたクローバーのアクセサリー。
緑色で一枚だけ黄緑色のクローバー。これを使っている太子がふっと脳裏に浮かんだ。
太子はいつも前髪を髷のように結っている。黒いゴムを使ってたはず。
これ、似合いそうだなぁ…
なんて、思えば手に取りレジに向かってた。
「あっ…」
「あっ妹ちゃん」
レジにいたのは間違いなくセーラー服を着た閻魔先輩だった。
「嫌、変態大王イカ!」
「えぇ!嫌ってなにさ!」
「学外ではあまり関わりたくないと言う意味です」
僕はレジにアクセサリーを置いたまま出て行こうとすると、タモで捕らえられてしまった。
「ムカつく」
「ボソリと言わないでね、若干聞こえてくるのが物悲しいから」
そんなお約束をひとしきりやり終えると、先輩はクラフト紙のショップバック(というより紙袋だけど)にゴムを入れた。
「あ、こっちのゴムもいる?」
「いるか!!窒息させるぞ!」
大王が取り出したるはコンドーム。
ピンクなのが余計にムカつくんだけど、引ったくって投げ返した。
「何だよ〜人の親切を」
「そんな変態な親切は受け取れません。そんな事より、いくらですか?」
僕はズボンの後ろポケットから財布をとりだした。
「350円。何々?太子にプレゼント?」
レジ台に身を乗り出し、興味津々で聞いてきた。
そうなんだけど、この人に素直にそうですなんて言いたくないし…。あぁでもこの目はわかってて聞いてる。
「先輩のイジワル…」
あえてそう言うと、先輩は「あぁ…なるほどね…」と囁いた。
え、何に納得したの??
すると、レジ奥のドアが開き先輩とそっくりな人がやってきた。
でも少し年上?で髪も長いし、服だってちゃんと女物だ。
「あ、姉ちゃん!」
先輩がそう言うと、その人はニコリと微笑んだ。
「大王の姉貴です。何?友達?」
「友達じゃないです。友達の彼氏です。」
「え、あんた彼女いたの?こんなセーラー野郎に」
「つか、姉ちゃんも知ってる奴だよ。良く家に来るじゃん」
「…まさか…いや、聞かなかった事にする、さ、レジありがとうね。何か話し込んでるみたいだし、あんたが鬼ちゃん以外の友達?連れてきたの初めてだし、あがって貰えば?」
「そうだね!妹ちゃん、お茶飲んでって!」
「いや、…はぁ。わかりましたよ。」
「あ、大王に襲われないようにね」
冗談っぽく言ったので、先輩と鬼男君の事を知ってるのかと思ったが、さっきちょっと引いてたし、疑問に思っていると、先輩が
「妹ちゃんは男だよ」
と言ったので、全てに納得した。
「そんなに僕は女に見えますかね?」
「少なくとも俺より女寄りだと思うよ」
あんまり納得したくないな。
先ほど、お姉さんが出てきたドアをくぐると、靴を脱ぐ。レースの暖簾を潜れば目の前がリビングだった。
猫足のローテーブルとそれを挟む様に置かれた一人用の小さなソファーが二つ。僕は赤と黒の市松模様のソファーに腰掛けた。
「ここって実家なんですか?」
女性的な家具が珍しくて座ったままきょろきょろ見回す。狭いけど綺麗に片付いてある。
「いや。姉貴ん家。古アパートを改築して、一階の表が店、裏と二階が居住用になってんだ。」
「あぁ。それで、女の人っぽい部屋なんですね。てっきり先輩の趣味かと」
「えぇー。俺ってばそんな目で見られてる?」
「自分の容姿を確かめてから出直してきてください」
僕の前に白いティーカップとクッキーの乗った皿を置いた。
食器もきっとお姉さんのものなんだろう。
「留年してから家帰ってなくて、今も帰りづらくて、姉貴に頼んで一緒に住んでんだ。」
「そうだったんですか。でも、お姉さんびっくりしたんじゃないですか?急に昔の先輩に戻ったから。しかもセーラー服とか着てて、精神科進められませんでした??」
「え、そこ??」
今にも泣きそうな弱弱しい顔で僕を見つめてきたので、そっと焦点を奥へ奥へと合わせた。
「あ!それより、さっきなるほどねって…」
「ん?あぁ、太子が妹ちゃんを可愛がる理由がね、わかったなと思って」
「何ですかそれ…」
「だって、照れた顔でイジワルとか囁かれたら、誰だって悪戯したくなっちゃうでしょ」
けらけら笑いなが、僕にとって恥ずかしいことを言われてしまった。
やだなぁ…この先輩はわかっててけしかけてくるんだもん。反応したら負けだってわかってるのに。
「だいたい…先輩だって盛りすぎだと思いますよ。鬼男君何にも言わないけど、最近学校でよく腰摩ってるし、体育では一緒に着替えないし、ちょっとは学校生活のこと考えたらどうですか?」
「言うねぇ…俺はそうやって鬼男に愛情表現してるの。そんで、その日の夜とかに言葉攻めにするのが好きなんだ」
「先輩ってそっち方面だと限りなくSになるんですね。」
というか、何で僕は閻魔先輩とこんな話をしているんだ。隣ではお姉さんがレジで働いてるというのに。もしかしたらドアで聞き耳立ててるかもしれないのに。
だって、久々に弟が帰ってきたと思えば次は同性愛発言を受けたわけなんだから、まず気になると思う。僕なら間違いなく聞き耳立てるね。
「妹ちゃんもまだ太子に抱かれてないみたいだけど、気をつけた方がいいよ。あいつ、俺と同じ感じするから」
「だっ!!!抱かれ!!?な、な、な、何を言うんですかあんたは!ベロ引っこ抜きますよ」
もうやだ!この人といると僕のペースが乱される!!!
これ以上僕は付き合いきれないから、バックを持って立ち上がった。
「先輩ってばほんとにイジワル!!今夜は太子先輩と一緒に夕食の予定があるので僕はお暇いたします。」
「あぁ!ほら、忘れもの!!!」
僕が勢いよく立ちあがると、先輩は封をしたさっきの紙袋を手渡した。そうだ、受け取り損ねてたんだ。
そして、にやにや笑いながら案外素直に、僕を返してくれた。
「んじゃ、太子によろしくね〜」
「えと…あ、はい。」