一学期

□告白
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 その後、太子を連れて家に帰るが、電気は真っ暗で誰もいなかった。
 キッチンには何の因果かカレーが置かれている。

「妹子のお母さんは??」
「さぁ…」

 携帯を見てみると数回の着信があった。何だ、電話来てたんだ。
「あ!妹子!書き置き書き置き!!」

 リビングのローテーブルに置かれてあったのは広告用紙の裏に書かれた置手紙。
 油性のマジックで書かれていて、内容は
「おばあちゃんが風邪をひいたのでちょっと実家に帰ります。1週間位して帰ってくるね」
 という内容に、2万円が置かれていた。たぶんこれで好きな物でもかって食べろということだろうな。

 っていうか、このタイミングで1週間もいないのか…

「太子、手を洗いますよ」

 僕は太子を手洗い場に案内し、手を洗う。が、蛇口をひねると腕に激痛が走った。

「え…?」
「どうした妹子?」
「腕が…涙出るくらい痛い」

 激痛に僕は冷や汗が吹き出した。

 太子は僕の袖をまくりあげると、痣になっている部分をつつく
「痛ー!!!何してくれるんですか!死ねっ!」
「おーまぁー!!!」

 思わず僕は蹴りを入れ、太子はがくんと膝をついた。

「妹子、病院に急ごう。これ、皹入ってる」
「ヒビぃー!?えーやっと休めると思ったのに、まさかヒビ!?」

 そんなわけで、僕はやっと帰ってきた家を出て病院へ。
 全治1か月だって。腕半分を覆う半分ギブスがなんだか大げさで笑える。そんで、首からかけた布で腕を吊るされた。

 そんなわけで、お腹を空かせた僕達は結局家に帰ったのが11時過ぎ。


「太子は、家に帰らなくていいの?」
 温めなおしたカレーを食べながら、僕はふと疑問に思った。
 お金持ちの家なんだから門限とか厳しそうなのに…。

「誰も私のことなんて気にしないさ。それより、私1週間ここに泊って良い??」

 キラキラした目で太子は僕に聞いて来た。

「ほげぇ泊まり?確実にカレー臭が家に染み付くじゃないですか」
「いいだろ〜妹子〜。私が妹子の世話した〜い。家族無き今、妹子の世話がしたぁ〜い」

 太子はウザいぐらいにうなだれて頭で僕の頬をぐりぐり押してきた。
「えぇー。何この人。キモいんだけど。」
「キモイって言うな」

 それでも僕はうれしかった。先輩が僕の為にここに居てくれるって。母さんや父さんが今はいないから、いてくれるのは本当に嬉しい…。けど、それを素直に言うのは癪だから絶対言わない。
「でも、着替えとかどうするんですか?」
「明日取りに行く。今日はもうこれでいいや。」
「制服脱いで直にジャージ着ただけじゃないですか!」

 僕たちは部屋に戻ると、太子が意味のない着替えを果たした。

「あ、でも下はさすがにこのままだな」
「僕のでよければ貸しますよ」
「いや、私ノーパン主義だから」
「変態っ!逐一お前はとことん変態だなっ!!!」
「日本語がものすごい事になってる。えぇ〜い!!くらえ!!超必殺飛鳥文化アタック!!」

 変態と言われて怒った太子はなんだか部屋中をグルグル回って飛び回りながら大暴れする。
「狭い部屋で何やってんだ!!!」

 そう言うが、なんだか自分でも止まることができないらしく、ベッドに座っていた僕に突っ込んできた。
「受けとめられるかっ!!!」

と、思いよけるが、それもままならず、太子は僕に覆いかぶさるように倒れこんできた。

 先輩は僕の腕をつかむと、ベッドに押し倒す様に引っ張ってぎゅっと抱きしめた。
「た、太子!!?」
「こんな怪我したのも、私のせいだよね。本当に巻き込んでごめん」
「良いんですって。僕だって、断らなかった。鬼男君の為になると思って…それに、先輩の言うこと断れるわけないじゃないですか…」

 僕はなんだか恥ずかしくなって、顔をそむけた。

 なんだこれじゃ、まるで告白みたいじゃないか。
「妹子…ありがとう。きっと鬼男も閻魔もうまくやってるよね」
「いや、あれはうまくいきすぎですよ。」

 先ほどの情事を思い出し、再び僕は顔が赤くなるのがわかった。

「妹子ヤラシイ〜。思いだしてる」
「るっせー!あートラウマ!ショックだし!!」

 僕がそう言うと、太子はクスリと笑うと、掴んでいた手を滑らせ、絡ませるようにぎゅっと握り替えた。

「あ…太子ぃ…」

 なんだこれ。今まで平気だったのに、ちょっと見つめられて、手を組みか替えられただけなのに凄く心臓が高鳴りだしたんだけど。
 この距離だし、唇が…近くて…キスされちゃうのかな?って…先輩なら嬉しいかも…とか期待しちゃうのはなんで???

 太子は顔を寄せ、触れるか触れないかのところで妖艶に笑いながら話を続けた。

「緊張してる?…やっぱり妹子は可愛いな。はじめて見たときから、変わらない…」
「初めて…?」
「うん。はじめて…入学式のときに私たち廊下ですれ違った」
「それだけ?」
「うん。でも、私の理想がそのまま飛び出してきたと思ってびっくりした。」
「理想…」

 僕は先輩の目を見るのもできない。恥ずかしすぎる。何でこんなに僕は照れて…先輩も僕も男なのに…。
 静かな時間が流れると、先輩はちうっと僕に口付けた。
 
「んっ…」
「私ね、妹子のことが好きなんだ。」
「ぼ、僕は…」

 頭が混乱してきた。
 僕ははじめの頃、恋に近い憧れを先輩に抱いていた。でも、もっそい変態だってわかったし、付き合うのも億劫だけど、なんでだろ、いざとなると気持ちが…好きなのかもって思っちゃう。

「私のこと、嫌い?」
「うぅん!太子!僕は、太子のことがたぶん…好きです…」
「妹子!!!」
「ぎゃわっ!!!」

 ベッドに押し付けるように僕を抱きしめると、犬か何かにするみたいに頬をすりよせ足をバタバタさせる。

「良かった!」

 もう一度キスをすると、僕は眼をつぶって太子にすべてを任せることにした。
 何度も何度も触れ合うキスをするけど、太子は僕の頭を抱えるように抱きしめて「今はここまでね」と言った。

「これ以上すると私どうなるかわかんないし。妹子の腕が直るまで我慢する!」

 そう言うと、僕の隣に仰向けになった。

「…先輩。お休みなさい」
「うん…お休み妹子…」







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