一学期
□僕らの出会い
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本日最後の6時間目は芭蕉先生の授業だった…
先生の声は優しすぎるから、クラスの半分以上が机に伏せっている。
この授業で起きていられるのは学年一の秀才である河合曽良位だろうな。
半分ほど瞑られた目で前の方に居る河合の背中を見ると、一言一句漏らすまいと食いつかん形相で黒板をみていた。
「(…様に見えるだけで、あれは間違いなく先生見てるし)」
僕は河合が時折謎のタイミングでニヤリと笑っているのに気が付き教科書の影で乾いた笑いを漏らした。
いろんな意味でホント目が離せないよ。
そう思いつつも最近掛け始めた眼鏡を外し、目頭を指手押さえた。なんだか慣れなくて目頭がすごく重たく感じる。
欠伸ついでに目をこすり、再び眼鏡をかけると、校庭に目がいった。
青いジャージがサッカーボールを追いかけている。
最近、おかしなクラスメート以上に目が離せない人が出来た。
一個上の学年で、帰国子女だか何かで年齢自体は18歳だったかな?
厩戸太子先輩…
勉強もできるし、かっこいいし身長高いし、なるならあんな男になりたいなって思う。
できれば直接話してみたいって思うけど、部活も委員会も入ってないから学年違うと中々話したりする機会なんてない。
上からだと直ぐに先輩を見つけられるのに、先輩からは僕なんて気が付かないだろうな。
つか何だ?
気付く気付かないって。
ぼーっとして先輩を見ていると僕はドキリと胸が高まった。
つか何だ?
胸が高まったって。
先輩と目が合ったんだ。目が合っただけなのに、僕だけに笑いかけてくれてる誰にも味わえない優越感。
ヘラッとした気が抜けるような笑顔に、僕の心臓は未だに脈打っている。
「…君?…小野君?」
「へっ!あっはい!?」
机間巡視していた芭蕉先生に声をかけられて、僕は上擦った声を上げてしまった。 反射的に恥ずかしさがこみ上げ、俯くと先生がふわりと笑ってくれた。
良かった怒ってない…けど先生の肩越しから河合の突き刺さるような寒い殺気を感じた。
見ちゃ駄目だ。今なら視線だけで僕は死ぬ。
「君までも、よそを見るんだ、寂しいな」
「豚男がぁっ!!」
先生は授業態度の心情をうまくまとめてしまった瞬間、教室の前から黒板消しが黒い軌跡を引きながら飛んできて、先生の首が変な風に後ろへ反り返っていた。
あまりの事でスローモーションの様に見えて、びっくりした。
先生は首を抑えながら河合に向かって怒鳴りつけた(っていうより若干の抵抗?)
「おぶはぁっっ!!曽良君っ!!」
「馬鹿な句を詠んでないで、さっさと授業してください。」
「ばっバカな句!?普通生徒ってもっと遠慮しない!?」
「はぁ?句と言うのもおこがましいんですけど」
と、吐き捨てた。
流石というか、フリーダム河合が春の陽気なほのぼのした空気を一瞬で冬へと引き戻した。入学してから河合はずっとこんな調子だ。
河合は先生が僕に向かって俳句を読んだ事が気に入らなかったんだな。あいつかなり嫉妬深いから。
「好きでしょ?」って一回聞いたら、そうじゃないと言っていたけど。ツンデレって奴だね…
河合と目が合わないように視線をうろうろさせていると先生が首をかしげながら再びほほ笑んだ。
お願いだからこれ以上僕に笑いかけないでください。
「小野君も気をつけてね!」
それは河合にってことですか?
授業態度って事ですか?
しかしとりあえず大人しく頷いておいた。
今の一件で眠っていたクラスメートは頭を持ち上げて、また授業を再開させた。
僕はさっきの笑顔がまた見られるかなとこっそり校庭を見るが、先輩はグランドに向かって座っていたので見ることは出来なかった。背中しか見えてない。
先輩と話してみたいなぁ…
後ろ髪引かれる想いで僕は前を見る
黒板に戻った先生の前で再びマーフィー君の首をもいでいた嫉妬深い河合を見てふと思った。
憧れというより、まるで恋