赤の記憶

□はじまりの空
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「ふー、アチーな、アチーよ」

「もーも!帰りにハンバーガー食ってこうぜ!?」

「おおっ、イイっスね英二(エージ)先輩っ!」



昼間から止むことなく続いていたインパクト音やスマッシュ音、ストロークの音が聞こえなくなる頃、桃城は汗びっしょりになりながらも、どこか充実感を漂わせながら呟いた。
夕方になったとはいえ、夏の夜は長い。まだまだ辺りは明るかった。

桃城が背後から首に腕を回して来た菊丸にノリ良く答えると、二人は揃って部室へ入った。






「それにしても、何か拍子抜けするっつーか、違和感あるんスよね」

「越前が居ないからかい?」

「あー、多分そうっス」

「良いよなぁ。おチビは今頃海かにゃ〜?」



各自が着替えをしている中、思い出したように言った桃城に、不二はフッと笑みを浮かべて聞いた。

確かにこの日、リョーマは部活に出ていなかった。リョーマだけではない、一年生部員全員がいなかった。

夏の恒例行事、“臨海(林間)学校”。青学で毎年一年生が行う、特別行事のためである。
全国大会をまじかに控えたこの時期、行きたくないと渋るリョーマを、大石が無理やり行かせた。



「確か、越前のクラスは沖縄だったな」

「そうっス。いや〜、俺去年山だったんスけど、すっげーセミで、めちゃくちゃ煩かったんスよー」



各クラスの行き先をきちんとインプットしているであろう乾の呟きに、桃城はヘラッと笑った。



「そう言や、先輩たちはどこ行ったんスか?」

「僕は京都だよ。天橋立って知ってるかい?」

「……日本三景の一つっスよね」

「うん、正解」



桃城の質問に答えながら不二が問うと、話しを振られた海堂は、手を止めて答えた。

桃城が社会を苦手なことは充分承知の沙汰である海堂は、大して気にも止めなかった。

するとそこに、菊丸がひょっこりと顔を出し、話しに加わる。



「俺はねえ、北海道!大沼とか洞爺湖とか、いろいろ行ったぜ〜!!」



楽しそうに当時のことを説明する菊丸の話しを、桃城は相槌を打ちながら聞いた。



「そういう桃は、どこに行ったんだっけ?」

「白神山地っスよ。てゆーかタカさん、お土産買って来たじゃないっスかーー!?」

「あぁ、ごめんごめん…」



ひでー、と言う桃城に、河村は苦笑いを浮かべながら謝った。



「青森のお菓子だったよな。結構甘かったやつ」

「そう!さっすが大石先輩!」

「おいおい、そりゃないよ、桃」

「やっぱ大石は違うにゃ〜〜」



明らかに意味のある桃城の言葉に、河村は困った表情を浮かべながら宥める。
それをわかったうえであえておちゃらける桃城の態度に、菊丸がさらに便乗し、部室内は笑いに包まれた。






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