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□社恋・九条環 緑色した目をした魔物に とりつかれし者
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仕事で会うたび毎に 僕は──

創はんに 向けられる彼女の全ての姿に みぞおちが ザワザワざわめいて落ち着かない。




創はんの髪についたゴミを 優しく取る彼女の繊細な指先。
創はんが照れたような、いとおしげな瞳を彼女に向け 一言二言、言葉を交わしながら 2人柔らかく微笑みあう…。



少し離れた位置から、2人の姿が 僕の視界に入る。

「  気持ち…、わるっ……」


2人の仲睦まじそうな様子に 胃がムカついてイライラする──。




ついつい、無意識に僕は彼女に 冷たく意地悪に接してしまう。

なのに

君は僕に対して素直に そして真摯にぶつかってきた。


眩しい── 煌めき を放つ君。


だから、僕は
君に 着物の本質を見せとうなったのかも しれへんね?



誰にも 着こなせるはずがないと思うとった、母の形見の着物を着た君は──

形見の着物は、君の内面を 際立たせ…その凛とした美しさに 僕は息を呑んだ。


野山に咲く一輪の竜胆のように 気高く可憐で、それでいて今にも咲き誇らんとする 大輪の牡丹の艶やかさもある。


いや…まだ
芳醇な香を秘めた 牡丹の蕾──

やな。



僕の手で 華を開かせとうなった。




でも実際は
「驚いた…よう 似合おとるよ。」



僕は彼女に そう語りかけるだけで、精一杯で

彼女は、着物の魅力に感激しながら 既に頭の中は企画の事でいっぱいで






漸く、今

ヒロイン。 君への思いを強烈に 自覚したばかりの僕は……君を口説く事など

いや、この想いを口に出す事すら出来なかった。







…………………何故なら
僕には、付き合っている人が 居たから。


きっちりケジメを つけてから、君への想いを 伝えよう




そう心に秘めていたのに…
君は僕の理性を いとも簡単に打ち砕いた。





スーツに着替えた君は、ふんわりと笑って 残酷とも思えるセリフを吐く。


『九条さん。今日は本当に ありがとうございました。
お陰でいい企画案が 浮かびました!これからすぐ 創と企画を練って…必ず、良いものを持って来ます。』



……これから?    !!!!

こないな時間から?!



あかんやないの!危ないやないの?





「こないな時間に、男性宅を訪ねはるのは えらい感心しまへんなぁ
 …危機感のない子やねぇ」


君は どない思うとるかは知らんけど…創はんは確実に 君の事を好いとるんや。




『危機感ない…って、仕事ですし 私達にそんな感情なんて……』


…あるに決まってるやろ。創はんには。ほんま ニブイ子やね。



「ほんなら、僕が ちぃと着付けた位で…頬を染めてなんて 反応しいな!

男の家に訪ねて来て…あの反応は、襲って下さい。って 言うてるもんやで」



ダン!!


頭に完全に血が上り、彼女を壁際に追いやり、押し付け
僕の足で 彼女の膝を割り、全く身動き出来んようにして 彼女に問うた。


「あんさん ちょっと僕の気持ちを弄ぶにも程が ありやしやせんか?」


『くっ、九条さんには、お付き合いしてる方が いらっしゃるじゃないですか?』



だから、君は 創はんのところへ行く…そう言いたいんかいな?


ギリッ

壁に押し付けてる彼女の腕を掴む手に 力が籠る。




『 ?! …んんっ ゃっ…』






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