Treasure Box.
□Honey
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今日も今日とて、片付けきれなくて持ち帰った仕事を部屋で片づけていると、くぐもったノックの音がした気がして、俺はパソコンを打つ手を止めた。
「……はい?」
返事をしたが、いらえはない。
俺は止めていたパソコンを打つ手を再び動かしだした。
すると再びノックの音。
さすがに空耳とも思えず扉を開けると……
無駄に大きなトレイに、白と黒、二色の飲み物が入った二つのカップを載せたかんなが立っていた。
「修ちゃん……どうして早く開けてくれないのよぉ。
両手使えないんだから早くして欲しかったのに〜」
じゃあどうやってノックしたんだとか、そもそも声をかけてくれとか言うツッコミはしないでおく。
どうせノックはつま先あたりで蹴ったんだろうし、ノックしたらこっちが開けるもんだと思ってるんだろう。
「どうしたんだ、こんな時間に……」
ちなみに現在時刻は、シンデレラの魔法が解ける頃合い。
夜の早いかんななら、普段はとっくに夢の中という時間帯だ。
だからこそ、最近なかなかかんなと過ごす時間が持てなくて、多少カリカリしてたんだが。
「なんだか寝つけなくって。
で、ホットミルクが飲みたくてキッチンに行ったら、御堂さんにコーヒー持ってってって頼まれたの」
要君……グッジョブ。
「『疲れた時には甘いモノを……』って御堂さん言ってたけど、何の話だろ?
修ちゃんのコーヒー、ブラックだよね?」
首を傾げるかんなからトレイを取り上げながら、俺は言った。
「……さあ、何だろうね」
本当は十分にわかっている。
最近お疲れ様な俺は、甘いモノ=かんな不足なのだ。
要君は付き合いが長い分、俺がカリカリしてたのに気づいてたんだろう。
……感謝、感謝。
テーブルの上にトレイを置き、かんなが席に着くのを待って、その前にホットミルクを置こうとカップを取り上げた。
かんなと同じ、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
それがなんだかとても美味しそうに思えて、傍らに置いた自分のブラックコーヒーでなく、かんなのホットミルクに口を付けた。
「…………甘い」
「あーっ!」
蜂蜜入りのホットミルクはとびきり甘かった。
だけどそれは、君みたいに優しい甘さで。
「それ私の〜!」
猫舌の君ではまだ熱くて飲めないのに、俺からカップを奪い取り、それを抱え込んでむくれる姿が、可愛くて仕方ない。
「……口直し」
「え?」
俺の声に顔を上げたかんなの唇に、俺はとびきり甘い甘いキスを落とした。
ああ。やっぱり甘い。
蜂蜜みたいに甘い君。
ブラックなコーヒーに合わせる甘味は、やっぱり君が一番良さそうだ。
「やっぱり、疲れた時には君が一番かな。俺のハニー……」
耳元で、とびきり甘く囁くと、かんなは真っ赤になったけど、カップを置いて抱きついてきた。
「ミルクが冷めるまでなんだからね!」
そう言い張る腕の中の小さなかんなを仰向かせ、俺は再びキスをした。
……ミルクが冷めきってしまっても、君は許してくれるかな?