Treasure Box.
□最低のち最高のBirthday
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……最低の誕生日……。
私は今日何度目かのため息をついた。
……ベッドの中で。
今年の私の誕生日は、家族だけでパーティーをしようって言う話になっていた。
うちだと来客がありかねないからって、別荘でやることになって……
行ったことのない場所に私は興味津々で、頼み込んで先に一人で来させてもらったんだ。
そしたら……
あまりの気温差に、見事に風邪っぴき。
熱を出して寝込んでしまった。
向こうは寒いから風邪ひかないよう気をつけて、ってさんざん言われたのに……
「……はあ…………」
とりあえず私は、感染したら悪いと思って、みんなには別荘に来ないように言ってもらった。
誕生日当日までには気合いで治すつもりだったけど……
……無理だった。
数人の使用人しかいない別荘の中は、しんと静まり返っている。
いつも風邪をひいた時は、おばあちゃんがつきっきりで看病してくれてたっけ……。
風邪で心細いのに、ひとりぼっちを感じるこの静寂は、余計に不安をかき立てる。
……こんなとき。
心に浮かぶのは、大好きなあの人のこと。
(修ちゃんに……会いたいな……)
他はどうでもいいから。 ←
会って、抱きしめてもらって、あんなことやこんなことや…………してもらいたい。
記憶の中であの暖かい笑顔に出会った私は、安心したのかトロトロとまどろみ始めた……。
・・・・・・・・・
目が醒めたら、部屋に西日が差し込んできていた。
(まぶし……)
思わず目を細めたら、シャッと音がしてカーテンが閉められた。
寝起きの視界にはちょうど良い明るさに私が身じろぎし、まばたきをすると。
「……起こしちゃいましたか?」
悪戯っぽい声がした。
え……この声……まさか…………
「……修ちゃん?」
窓辺に立つその人は、逆光で顔がよく見えない。
だけどその声と、そのシルエットを、私が間違えるはずがない。
だってそれは……
「……修ちゃん……!」
大好きな、あの人のもの。
逢いたくて堪らなかった、修ちゃんの……!
私は、ふらつく体に無理やり力を入れて起き上がると、修ちゃんのところへ行こうとした。
だけどやっぱり自分の体を支えきれず、ベッドから落ちかける。
「……おっと」
床に落ちるかと思った私を、力強い腕が抱き止めてくれた。
そのまま彼のおでこが私のおでこに降ってくる。
コツンとぶつかった修ちゃんのおでこは冷たくて気持ち良くて。
すぐに離れてしまったことが残念で、物足りない気持ちがいっぱいで仕方なかった。
「まだ熱いな……大丈夫か?」
「うん!
修ちゃん来てくれたら元気出てきた!」
夢中で広い胸にかきつく私の頭を、修ちゃんは優しく撫でてくれた。
「かんな……心配したんだぞ?」
「うん……ごめんなさい」
しおらしく謝ると、修ちゃんは私の大好きな顔で笑ってくれた。
良かった……機嫌良さそう……
私はつい言葉を重ねてしまう。
「私……ホントは修ちゃんと二人っきりが良かったの。
だから、不謹慎だけど、ちょっと嬉しい」
「ホントに不謹慎だぞ?」
修ちゃんは変わらない口調で言った。
だけど何かが違う気がして……
修ちゃんの顔を見ると、変わらない笑顔の額に、はっきり青筋が浮かんでいた。
ヤバ……怒ってる……?
「かんな。
こっちは寒いから、風邪ひかないよう気をつけて、って言ったよな?」
「……ハイ」
「そのとき、風邪なんかひかないって、自信満々に言ってたのは誰だ?」
「う…………私デス」
「で、このザマだ」
「………………」
「嘘つきにはお仕置きが必要だよな?」
何も言えない私を、修ちゃんはベッドに放り投げた。
シャツの上ボタンを外しながら、ゆるゆると私に近づいてくる。
「治るまで寝かさないから……覚悟しろよ?」
修ちゃんの、黒い笑み。
イジワルでドSで、ちょっぴりセクシーな、私しか知らない笑顔。
ああ……この顔が見たかったの……。
結局私は、しっかり汗をかいて熱が下がるまで寝かせて貰えなかった。
それでも。
私にとっては、最高の誕生日になったよ。
唯、あなたが居るだけで。
ありがとう、修ちゃん。
大好きだよ、修ちゃん。
これからも、よろしくね……?