†D.Gray-man【短編】
□ハッピークリスマス
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ハッピークリスマス
少し肌寒い教団の廊下を進む。
窓の外では、昨日から降り続く雪が真っ白な世界をつくり出していた。
夜空を照らす銀色の月が反射して、外は明るい。
「ふぅ…寒い」
エントランスを抜けて外へ出ると、どこまでも続いてゆきそうな銀世界が私の目に飛び込んできた。
何故こんな寒い中、わざわざ外へ出てきたかと言うと…
「きれい…。今日で見納めだもんね。また来年、見られるかな」
呟く私の視線の先には、大きなモミの木。
科学班総出で飾り付けられた大木が、雪で覆われた純白の世界で、ただ一つ鮮やかな存在として異彩を放っていた。
空から零れおちた星達を集めて飾り付けたような、そんなクリスマスツリーを最後にもう一度眺めておきたかったのだ。
今日は聖なる祭日―クリスマス。
12月25日が終わってしまえば、このツリーとも来年までお別れだ。
体を刺すような冷たい空気に、思わず小さく身震いした。
寒いけど、まだ見ていたい気持ちもある。
両腕で自分の体を温めるように擦っていると、金色に輝く球体が私に向かってふわふわと飛んできた。
「あれ、ティムキャンピー。どうしたの?こんな所で」
右手を差し出すと、その上に乗ったティムが大きく口を開けた。
そして、ティムを追ってやって来た人物が、少し離れた場所から声を掛けてきた。
「ミリアっ、何してるんですか?」
積もった雪に少し足を取られながら此方に向かってくるのは、その雪のように真っ白な髪をした男の子――
「アレンこそ、こんな所で何してるの?」
「談話室のバルコニーから、ミリアが外に出ていくのが見えたから。何となく、気になって」
「えー?アレンと違って迷子になったりしないから平気だよ」
「…そ、そういう心配じゃないよ」
少しからかうように言うと、アレンはあからさまに眉をひそめた。
それから、気を取り直したように口を開く。
「寒くないですか?これ、よかったらどうぞ」
差し出されたのは暖かそうなマフラーだ。
お礼を言って受け取ると、小さく微笑んでからアレンもクリスマスツリーへと視線を移した。
「それにしても、何だか今日で見納めだと思うと、勿体ない気もしますよね」
「うん。だからね、もう一回この目に焼き付けておこうと思って。今年のツリーは今年しか見れないしさ。
それに、毎年この木にお願いするの」
「何を?」
問い掛けてきたアレンを一瞥し、私はツリーを見上げながら答えた。
「来年も、みんなで一緒にこのツリーを見れますようにって」
どうか来年もこの時期には、みんなが無事に教団に帰ってこれますように。
そして、笑顔で新しい年を迎えられますように。
いつの間にか、クリスマスの夜にツリーを眺めながら、そんな事を祈るのが毎年の恒例になっていた。
少し黙りこんだ後、アレンが静かに言葉を開いた。
「きっと、見られるよ。来年も、その次の年も。
また、みんな揃って、ジェリーさんの作ってくれるクリスマス料理でお祝いしましょう」
「うん、そうだよね」
「ここは寒いですし、そろそろ戻りましょうか」
その後、「転ぶといけないから」と差し出されたアレンの手を取り、教団の建物内へ戻る。
ちらりと振り返った先では、相変わらず立派なモミの木が静かに佇んでいた。
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