†D.Gray-man【短編】

□手と手つないで
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手と手つないで



小さい頃から泣き虫で、どうしても堪え切れずに涙がこぼれてくる時は一人になれる場所を探す。
負けず嫌いな私は誰かに泣き顔を見られるのが嫌だった。



――『ミリアは強いですね。私も見習わなくちゃ』



そう笑いながら褒めてくれた彼女の声や、頭を撫でてくれる手の温もりを、今でもしっかりと覚えている。
もっと褒めて欲しくて、もっと笑って欲しくて…
私がマリアンヌの前で泣いたのは、彼女が命を落とした時。
唯一、その時だけだった。


その日も私は一人で、宵闇の迫る丘の上で、ただ沈む夕日を眺めていた。

クロス元帥と離れてから、ちょうど5カ月と2週間が過ぎた頃。
私をティエドール元帥に預けてから、師匠からはたった一通手紙が届いただけで、なんの音沙汰もなかった。

もう会わないと分かっていたら、ちゃんとお礼を言いたかったのに。
今まで育ててくれたこと、一人ぼっちになった私を側に置いてくれたこと。
ちゃんと聞きたかったのに

――私は良い弟子でしたか?

どうして師匠が急に私を投げ出したのか、理由を聞きたかったのに…
面倒になったとか、邪魔になったとか、どんな理由でも良い。
訳を聞かせて欲しかった。
そうすれば、こんなに待ったりしないのに。

何も言ってくれなきゃ、きっと、あなたが迎えに来てくれると、そう期待してしまうじゃないか。



「師匠ぉ…」



小さく呟いた声は、夜風と共に消えていく。ティエドール先生は師匠なんかに比べればずっと優しいし、今の環境に不満がある訳ではない。
それでも、こんなに寂しいのは、自分が思っていた以上にあの馬鹿師匠が私の中で大きな存在になってしまっていたからだろう。
きっと師匠は私のことなんかちっとも気にならないんだろうけど。
そう思うと悔しかった。

流れた涙を拭った所で、ふと誰かの気配に気づく。
恐る恐る振り返ると、そこには見慣れた姿があった。



「っ……」



ティエドール先生の所に来てから出会った、私と同じエクソシストの男の子。
愛想ないし、乱暴だし、すぐキレるし、正直コワイこの人は今では私の兄弟子に当たる。
一個か二個しか違わないハズなのに、妙に大人びた印象を受ける。



「…ユウ」



夜の闇に溶け込むような漆黒の彼の髪が風に揺れている。
私に名前を呼ばれて、彼―神田ユウのもともと眉間にあったシワが更に深くなる。

こうして一人で泣いている時、彼はいつも迎えに来てくれた。
正確には、ティエドール先生に言われて迎えに来ているだけなのだけど。

今だ、座り込む私の傍までやって来て、神田が小さく舌打ちする。
最初は怖かったけれど、たまにこうやって舌打ちするのは、彼の癖らしいのでもう慣れてしまった。


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