†D.Gray-man【短編】

□非常事態における迅速かつ正しい行動とは
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「あ〜…肩こったな。デスクワークは嫌いじゃないけど、ここまで長時間になるとね…」



科学班から自室に帰る途中、そんな事を呟いた。
預かっていた書類の処理が終わり、やっと本日分の仕事から解放された。


「それにしても…コムイさんの奴、またドコかで油売ってやがる。科学班のみんなが必死で働いてんのにトップは何やってんだか…」


私はもう帰れるけど、科学班のみんなは今から残業だもんなぁ。

あの人たち、いつ寝てるんだろうか…

白衣のポケットに手を突っ込みながら、食堂寄ろうかなぁなんて事を考えている時だった。


バチンっ


いきなり廊下に変な音が響き渡った。
それと同時に、一気に視界が真っ暗になる。


「え…ぇえ!?何?なになになになに!!?」


…とりあえず、落ち着け自分。
これは…停電?
まだ暗闇に目が慣れなくて、辺りの様子がいっさい分からない。

廊下の遥か遠くの方からは慌てふためく様な人の声が響いてくる。
もしかしたら教団中が停電を起こしているのかもしれない。

それにしても…辺り一面に広がる闇。

一歩踏み出したら、そのまま闇に飲み込まれそうだった。
ドキドキと脈打つ自分の心臓の音が、耳元で大きく聞こえる気がする。

あれ…私、怖がってる…?


「ははは…まさかぁ…」


平静を装ってみる。


「と、とりあえず…一度科学班に戻ろうかな…」


あそこなら、人もたくさん居るしね。
まだ目が慣れないし、壁づたいに歩いて行くか…
私は壁があるだろう方向に向かって、恐る恐る手を伸ばした。



カツカツカツ…



「っ…?」


廊下の端の方から足音が聞こえた気がした。
気のせいかとも思ったけど、その音は少しずつ大きくなってくる。

…こっちに来てる…?

私は反射的に息を潜めた。
足音がする方は真っ暗で、人影を確認することは出来ない。

ちょっと待って、なんか怖いんだけど…!!
しかも、その足音は少しずつ早足になってくる。
私は思わず耳をふさいで、その場にしゃがみ込んだ。

…どうか、人以外のモノでありませんように…!

ギュッと目を閉じていると、しばらくして肩に何かが触れる感触があった。
ゆっくりと顔を上げると、私の肩に手を乗せた人物と目が合った。


「大丈夫ですか?…そっか、ミリアって暗いの苦手でしたよね」


そこには、私の前に片膝をついて苦笑しているアレンの姿があった。
知ってる人間に会って、一気に体から力が抜ける。


「こ…こわ…」
「…怖かったの?」


私の言葉を続けるようにアレンが口を開いた。
思わず頷きそうになったけど、思いとどまる。

「こ、怖くなんて…なかった…よ?」
「そう、ですか?何か、すごく説得力無いけど…」
「気のせいです」


私が言い切ると、アレンはおもむろに立ち上がった。


「それなら…置いて行っても大丈夫ですね」


そして、満面の笑みで言い放った。
私が呆然と見上げていると、本当にそのまま歩き出した。


「あ。気を付けてくださいね?知らない人に付いて行っちゃ駄目ですよ。
特に…それが人以外のモノだったら尚更です」


立ち止まったアレンが、私に背を向けたまま言った。


「……」
「ミリア?どうかしました?」


咄嗟にアレンの腕を掴んでいた。

…だって、変な事言うから…。

振り返ったアレンが首を傾げたまま、私を見つめている。


「い…一緒に行ってあげる」
「ミリア。言い回し、間違ってるよ?」


笑ったままの表情で、アレンが言ってのけた。
ものすごく屈辱的…でも、仕方ない。


「…一緒に…行かせてください」


私が観念すると、アレンは小さく溜息を吐いた。


「最初から素直に言えば良いんですよ」

「こ、怖くなんてないしね!アレンが一人だと迷子になって困るから一緒に行ってあげるの!!」

「そういう事にしておきます」

「…ところで、こんな所で何してたの?」


このフロアにはアレンが用のありそうな部屋はないけど…。
気になっていた事を問うと、アレンが口を開いた。


「僕は停電した時、食堂に居たんです。ジェリーさんが科学班フロアに行けばブレーカーを上げられるって言ってたんで、行ってみようと思って」

「そうなんだ…」


一人で暗い廊下に飛び出すなんて…勇者だね。
私だったら、ぜったい電気が付くの待ってるけどね!

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