DRRR! !【外伝】

□陸<完>
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こ、こいつ…どこまで食べる気だ…

残されたポッキーは、あと5pも無いんじゃないか、そう思っている所で、何かがすごい勢いで目の前の空気を切った。



「ひっ…」



思わず小さく悲鳴を上げた私の前では、臨也も驚いたように身動きできずに固まっている。
さっき目の前をすごい速さで縦断したのは、シズちゃんの手刀だったらしい。
ポッキーは無残にも途中で切断されている。いつの間にか直ぐ近くに来ていたシズちゃんが小さく呟いた。



「おい…一つ良いかぁ?なあ゛?」


「…何かな?シズちゃん」



一瞬ひるんでいた臨也だったけれど、すぐに何時もの調子で笑顔を浮かべながらシズちゃんに問い返した。



「さっきからよぉ、黙って見てりゃあ何なんだ?罰ゲームだか何だか知らねぇがよ…ポッキーは普通に食いやがれぇぇぇーーーッ!!」



近くで叫ぶシズちゃんに対し、手の平で軽く耳を塞いでいた臨也が口を開いた。



「そんなに大声出さなくたって聞こえてるよ。ああ、まだ残ってたみたいだね」



臨也はそう言うと、懲りずに私の方に顔を寄せ、口元にあと数センチ残っていた僅かなポッキーを盗んで行った。



「ノミ蟲、手前…待ちやがれ!」



直ぐにその場から逃げ去った臨也に向かい、シズちゃんは手元にあった枕を拾い上げたかと思うと、力いっぱい投げつけた。



「おっと、あっぶなー。…シズちゃん、顔狙うのやめてよ」


「俺は手前のツラなんか見たかねえんだよ…!分かったら大人しく当たりやがれ!」



もう一つシズちゃんが枕を投げつけると、臨也はそれを避けてから、足元に落ちていた枕を拾い上げた。



「やれやれ。…仕方ないから、たまには相手してあげるよ…っと!」



そうして臨也が枕を投げ返すと、室内は一気に戦場へ。


白い四角が、もの凄い勢いで宙を舞う。もはや枕が凶器に見える。



「姫乃。危ないから部屋の隅に行こうか」



そんな景色を楽しそうに眺めながら、新羅は他人事のように未だヘラヘラと笑っている。
けれど、その数秒後、新羅目がけて飛んできた枕が、見事、彼の顔面にヒットした。



「ぶほぇ!ててててて…誰だよ、投げたの!」


「悪い、新羅ー。新羅に向かって投げたら当たっちゃったよ」



シズちゃんから放たれる枕を器用に避けながらも、臨也がこちらに視線を向けながら答えた。



「俺に向かって投げたらって…それ明らかに狙ってるじゃん!ちょっと、これでも…くらえ!」



立ち上がった新羅が、臨也に向かって枕を投げ返した。
もちろん軽く避けられてしまったけれど、新羅は気にしない様子で次に投げる枕を拾い上げる。
いつも傍観している新羅が二人の喧嘩(?)に参戦するなんて珍しい、とも思ったけれど、もはや喧嘩というよりは単なる枕投げ大会だ。



「姫乃も行こう。たまには臨也の奴に一矢報いてやろうよ」



そうして、さっき新羅が拾い上げた枕を手渡された。
合宿や修学旅行など初参加の私にとって、枕投げなんて行事はもちろん初めてだ。
手に握った真っ白な枕を見つめる。

一矢報いるか…
まあ、そんな事は難しいと思うけれど…

何となく、楽しそうだなという思いはある。



「新羅、二人で一発くらいなら当たるかな?」


「そう来なくっちゃ」



そうして、傍観組の私と新羅も加わり、4人での枕投げが始まった。
とは言っても、シズちゃんから投げられる枕は痛そうなので、ちゃっかり新羅と二人でシズちゃんの後ろに隠れながらの参戦だけれど。





「よう。ちゃんと大人しくしてたか」



ガラリとふすまが開いて入ってきたのは卓球から帰ってきた門田くんだ。
そして、彼の顔面に誰かが投げた流れ弾ならぬ流れ枕がヒットする。



「…ったく、お前ら!いい加減にしねえか」



その後、私と新羅も含めて、門田くんにしっかりとお灸をすえられた。

わぁ、まるでお父さんだ…などと内心で思っていたのは内緒だけれど。

とりあえず、布団はぐちゃぐちゃになったけれど、器物破損が無くて本当に良かった。

すっかり夜遅くまで騒いでしまい、翌日、睡眠不足で全く勉強に身が入らなかったのは言うまでも無い。



初めての合宿…
色々あったけれど、結果的には楽しかった。

たまには、苦手な事に参加してみるのも良いかもしれない。





<完>


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