DRRR! !【外伝】

□観察日記
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観察日記






放課後 

来神中学 生物室





倉伎姫乃が生物部に入部してから、一週間が経とうとしていた。
俗に言う、幽霊部員ばかりのこの部活で、彼女は書記兼会計の仕事を任されている。
入部と同時に、女子は字もきれいで細かい事もちゃんと管理してくれそうだから、との理由だけで押しつけられた役職だ。

窓際に並んだプランターに水をやりながらも、彼女は背後で交わされている会話にひそかに聞き耳をたてていた。



「……一体なんの話?」


「だからさ、もしこの植物たちだってテレパシーとかで意思を通わせることができれば、それは友情や愛情の対象になるよね?って言ったんだよ」



姫乃の背後では、他の部員二人が何かの話に熱中している所だった。
厳密には、一方的にまくし立てる部長の話を、副部長がやや首を傾げながら聞かされている、という図であるのだが。

他の部員が欠席(サボり中)のため、生物室には3人しかいない。
静かな教室には、さっきから部長である新羅の得意げな声が響いている。
内容としては先程の会話のように、やや現実離れした話ばかり。
それでも、彼が楽しそうに語る声を聞いているだけで、姫乃が、生物部に入部した甲斐があったと思うには十分であった。



ジョウロの水が空になったので、姫乃が水をくみに行くと、水道の近くで話していた新羅が彼女に声を掛けた。



「倉伎さん、水やりごくろうさま」

「あっ、うん」

「こういう部活だけど、入って後悔してない?変わった連中しか居ないし、植物栽培しかしてないけどさ」

「うん、楽しいよ」



姫乃が笑顔で答えると、「地味だけど、適当にやるには丁度いい部活だったでしょ?」と彼女の入部動機をいまだに勘違いしたままの新羅が口にした。
そして、「それにしても」と更に続ける。



「顧問の先生も細かいよ。僕らの活動内容が分かりにくいから植物の観察日記を提出しろなんてさ」

「一応、部活って名目なんだから仕方ないだろ」


新羅のぼやきに答えた臨也の前には、一冊のノートが開かれていた。
昨日、顧問から渡されたものだ。



「さすが副部長!やっぱり折原くんを誘って良かったよ。頼れる存在がいて部長の僕としては肩の荷が下りるって言うかさ。君には期待してるよ」



意気揚々と言われ、臨也は小さく溜息をつく。



「それってさ、全部俺に押しつけるって意味だよね?」


「うん、そのつもりだけど?僕が部長ってことになってるけど、実質、この部活は副部長のものだよ。やったね!」


「……ま、いいけどね」



新羅に向けていた視線をノートに落としてから、臨也は小さく「俺も好きなようにさせてもらうからさ」と呟いた。
けれど、そんな呟きに気付いていなかった新羅は、今度は机の上へと手を伸ばしていた。



「そろそろ沸騰したみたいだね」



そう言う新羅の視線の先にはブクブクと泡立つお湯が入ったビーカーと、その下で燃えさかるガスバーナーが置いてある。
教室の設備で沸かされたお湯を、新羅が小さめのビーカーに分けていく。

そんな様子を、隣では臨也が怪訝そうな表情で見守っていた。

そこへ、ちょうど水やりを終えた姫乃が戻ってきた。



「水やり終わったよ」


「お疲れさま。はい、これ倉伎さんの分ね」


「……?ありがとう」



新羅から差し出されたモノを、首を傾げながらも姫乃が受け取った。
手渡されたビーカーの中には、こげ茶色の液体が入っている。




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