DRRR! !【外伝】
□参
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「おう、お前らも居たのか」
「ずいぶん騒がしいこったな」
こちらに気付いて声を掛けてきた門田くんに、少し不機嫌そうにシズちゃんが返した。
「まあ、そう言うなって。確かに騒がしいが、花火も夏の風物詩じゃねえか。
さっきあの二人が馬鹿みたいに近場のコンビニで花火を大量に買ってきたからよ」
門田くんは親指を立てた右手で臨也と新羅の方を指し示しながら、「まあ、近場っつっても往復40分掛かるけどな」と付け足した。
「どうだ。お前らもやらねえか?」
「花火かあ。楽しそうかも。シズちゃんもやろうよ」
門田くんの誘いを受け、シズちゃんの方を見上げると、彼は面倒くさそうに吐き出した。
「俺は良いよ。つか、誰があんな奴と花火なんかするかよ」
あんな奴、とは間違いなく臨也の事だ。
まあ、シズちゃんの気持ちを考えると、臨也が視界に入るだけでもイライラするのだろうけど。
「でも…せっかく皆で合宿来たんだからさぁ」
「ぁあ?お前は行ってこいよ。花火、やりたいんだろ」
右手で私の頭をポンポンと叩きながら、「ほら、行った行った」と言うシズちゃん。
けれど、私はその手を掴んで下ろさせた。
「シズちゃんが行かないなら、じゃあ、私もいい」
「…あのなあ」
小さく息を吐いたシズちゃんを見て、門田くんが苦笑する。
「どうやらお前も強制参加だな」
門田くんの言葉に、シズちゃんからは小さく舌打ちがもれた。
「よし…いいだろ。花火もあのノミ蟲野郎も、消し炭にしてやりゃあ良いんだな」
「何でもいいが、火事だけは起こすなよ」
シズちゃんの言葉に、門田くんがもっともな突っ込みを入れる。
確かに、合宿で火事なんか起きたら大問題だ。
大惨事にはならない事を祈りつつ、みんなで花火が出来ることに私は少し心を躍らせた。
♂♀
「おや、シズちゃんに姫乃じゃない。
何だい?二人とも花火に参加しに来たのかな」
花火大会が開催されている裏庭まで来ると、手持ち花火を片手に持った臨也が、私たちに声を掛けた。
「あぁ、参加しに来てやったぜ。手前もろとも燃えカスにしてやるからよぉ゛」
「わお。シズちゃん、いきなり宣戦布告かい?やだな。せっかくの花火なんだから夏らしく楽しもうよ。ほら」
そう言って臨也がシズちゃんに向かって放り投げたのはネズミ花火だ。
しかも点火済み。
導火線が燃え終わって火薬に引火すると、シュルシュルと音と火花を散らしながらネズミ花火が暴れ出した。
「いーざーやぁー君よぉ゛…手前、そんなに俺と遊びたいか…?」
「ごめんよ、シズちゃん。あんまり君が怖い顔してるから手を滑らせちゃったよ」
「手が滑っただぁ…?花火は人に向けるなって教わった事ねえのか、手前はよぉ。
それを人に投げつけるなんざ、言語道断だよなぁ、ぁあ゛?」
「おお、怖い。だから謝ったじゃない」
「笑わせんな。そんな誠意もクソもねえ謝り方で許せっつーのか?…良いぜ、許してやる。
その代わり…大人しく俺に殴られろ!」
「おっと。危ない危ない」
「待ちやがれっ、ノミ蟲!!」
そのまま裏庭で追いかけっこを始めた二人はさて置き、私もロウソクから花火に火を付ける。
花火の先からはピンクに近い赤紫の炎が闇を照らすように噴き出した。
「綺麗な色だね。リチウムかな」
花火の光を見つめていると、私の隣にしゃがみ込んだ新羅が口を開いた。
「リチ…ウム?」
「そ。花火の色ってアルカリ金属とかの元素が燃えた時に起こる炎色反応を応用してるんだよ」
「いきなり科学の授業だね。あ、今度は淡いブルーになった」
「それだと多分、リン酸イオンの反応だね。あ、そう言えば…セルティは花火とか好きだろうか」
「どうだろう。でも、嫌いではなさそう。そういうの好きそうじゃない?」
「姫乃もそう思う?せっかくだから、夏休み中にセルティを誘って花火でもしようかな。ね、その時、姫乃もおいでよ。
僕が誘ってもセルティは来てくれなそうだけど、姫乃が誘ってくれれば来てくれる気がする!」
「…そう?」
「そうだよ!姫乃はセルティにとって初めての女の子の友達だからね。それじゃあ、後日改めて連絡するからさ」
「あ、うん。分かった」
私の答えに満足したらしい新羅は、立ち上がると新しい花火を取りに門田くんの所へ。
大量の花火に引火しては大変だと、何時の間にか、門田くんが花火の番を買って出てくれていた。
「もう打ち上げる系のやつも終わったし、後は手持ちが少しと線香花火だね」
門田くんと共に戻ってきた新羅が手元の花火を見ながら口を開いた。
普通の手持ち花火を私、新羅、門田くんの三人で消費し、あとは線香花火を残すのみ。
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