DRRR! !【外伝】

□参
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♂♀



夕食を済ませ、その後再び勉強。
やっと自由の身になったのは午後8時過ぎ。こんなに根を詰めて勉強したのはいつ以来だろう…。

すっかりガチガチに凝ってしまった肩を回しながら、私は宿泊施設の建物の外に出て来ていた。
建物前にはウッドデッキがあり、いくつかイスとテーブルも置いてある。
東京のじっとりとした夏の夜とは打って変って、ここの空気は澄んでいてすがすがしい。

辺りには都会の喧騒の代わりに、涼しげな虫の声と近くを流れる川の水音が心地良く響いていた。



「たまにはこういう所も良いなぁ」


「だな」


「うおっと!?」



思いがけず独り言に相槌を打たれ、奇妙な悲鳴をあげてしまった。
暗がりで気付かなかったけれど、ウッドデッキには先客が居たようだ。
雲が流れて月明かりが降り注ぐと、照明が無いにも関わらず、周囲が明るく照らし出された。



「あ…なんだぁ、シズちゃんか」



「…なんだよ?つうか、変な声出すな。何やってんだ?こんなトコで」



「あー、うん。ほら、部屋には居づらくって。同い年の子達と一緒に泊まったりするの、初めてだからさ。
そういうシズちゃんこそ何してたの?」



「部屋に居っとウゼぇからよ、ノミ蟲野郎が」
「あ…そうだよね」



確か、シズちゃんと臨也の他に、新羅と門田くんで4人部屋だと言っていたっけ。
合宿中にシズちゃんが宿泊施設を破壊しないか心配だ…。



「でもよ、わりと良い所だよな。ガヤガヤ煩くねえし、ゴチャゴチャ文句付けて来る奴もいねえ。
それに、なんつーか、こうやって静かな所にいると落ち着くっつうか…気が休まるっつうか」


「たまには山奥にこもるのも良いかもね。あ、見て見て!あれ天の川かな!?」



ふと天を仰ぐと、数えきれないくらいの星たちが夜空一面を埋め尽くし、ひしめく様に輝いていた。
その中でも一際目立つ光の帯は、まさに天井を流れる河との例えがぴったりだ。



「おぉ…アレが天の川か。…すげえな」



隣では私同様に空を見上げたシズちゃんが、感嘆の溜息をもらした。
夜更け過ぎまで明るい東京で暮らしていては、こんな情景を見られる機会は皆無に等しい。
と言うか、こんなに空を仰いだのは久しぶりだ。


くすんだ空と灰色のビルしか見えない都会では、こんなにしみじみと上を見上げる事なんてないからな…。


星空の美しさに、思わず言葉を失っている私たちをよそに、急に辺りに響いた甲高い物音がその静寂を断ち切った。



「…何だ?」



不審そうにウッドデッキから辺りを見渡していたシズちゃんが、さらに眉間にシワを寄せながら忌々しそうに呟いた。



「ったく…あいつら」



建物の裏庭の方に向けられているシズちゃんの視線の先では、モクモクと立ち上がる煙と共に明るい火花が見えた。

あれは…花火でもやってるな。

先程響いたのは、多分ロケット花火でも打ち上げた音だろう。
そして、花火をしている奴らに見覚えが。
今回の合宿で、シズちゃんと相部屋になっている面々だ。

次々と花火に点火していく臨也とその様子を楽しそうに眺める新羅、そんな二人の傍らでは、門田くんが燃え終わった花火の残骸をバケツへと回収している。

…もはや門田くんがお父さんに見える。

何となく私とシズちゃんがそんな様子を眺めていると、門田くんがバケツの水をくみ直しに、こちらへ向かって歩いてきた。





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