DRRR! !【外伝】

□弐
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♂♀
関東某所 合宿施設





「へぇ…やっぱ合宿に参加するくらいだから、みんな真面目だね。
来神じゃないみたい…」



普段の騒がしい授業中に比べ、少し落ち着いた雰囲気の自習室を眺めながら、思わず呟いた。



「お前も、手動かせよ」



隣ではシズちゃんが数学の問題を解いているようだった。



「はーい。来たからには一学期の復習しっかりして帰らなきゃね」

「だな。俺もまともに授業受けてねえからよ」



手元の教科書に目を向けたままでシズちゃんが呟いた。

たしかに、シズちゃんは毎日忙しいからなぁ。
…喧嘩で。

シズちゃんを見習って、私も苦手科目に取りかかる事にする。
どちらかと言うと理系な私は古文や英語なんかは少々苦手だったりする。
とりあえず、英語から手を付け始めたけれど、応用問題まで来ると徐々にペンの動きが鈍くなってくる。

駄目だ。

解説読んでも良く分かんない。

あそこで暇そうにしてる奴にでも教えてもらおうか。



「退屈そうだね。手が空いてるなら、ちょっと聞きたいんだけど」



窓際の席で外を眺めながら机に伏せていた人物――臨也が、ゆっくりとその身体を起こした。


「んー?手なら塞がってるよ。ほら」

「…携帯いじってるだけじゃん。勉強しに来たんじゃないの?」

「この合宿の趣旨はそういう事みたいだけど、俺は違うよ。何となく、面白そうだったから。
ほら。シズちゃんも来てるじゃない。休みに入っちゃうと中々からかってあげられないからさ」

「私、たまに思うんだけど、実は臨也ってシズちゃんのこと好きだよね?」

「ハハっ…面白い事言うね。ああ、でもシズちゃんのことは大嫌いだけど、シズちゃんを‘からかう’のは嫌いじゃないよ」

「どちらにせよ、シズちゃんは臨也のこと大嫌いだよ」



席に座りながら私が言うと、彼は「だろうねえ」と鼻で笑った。



「で。成績優秀な姫乃ちゃんが、俺なんかに何を聞きたいのかな?」

「馬鹿にしてる?理系科目ならともかく…他の教科は努力の賜物なんだけど」

「おや、俺は褒めてあげたつもりだったんだけど。
ま、いいや。で、その手に持ってる教科書からすると英語かな」

「ざっつ・らいと!」

「Well…What is it exactly that you want me to do?」



あまりに自然な流れで話し出すので、一瞬、日本語かと思った。

臨也が真面目に勉強している姿など見た事は無かったけれど、もともと頭が良いのだろう。
中学の頃からそうだったけれど、彼はこう見えて何故か成績は悪くない。



「あの…日本語でお願いします」

「言語ってさあ、不思議だよね。バベルの塔の話は知ってるかな?」



臨也は私の手から取り上げた英語のテキストをパラパラと捲りながら、唐突な話題を持ち出した。



「バベルの塔って言葉は聞いたことあるけど…いきなり何の話?」

「旧約聖書によると元々人間の言語は一つだったらしいよ。
昔々、愚かな人間たちは、神への崇拝の為では無く、自分たちの名声を世にあらわす為に、天まで届くような巨大な塔を建てようとした。
けれど、そんな傲慢な行為に激怒した神様はそれまで一つだった人々の言葉をバラバラにし混乱させた。
…もし、当時の人間たちが謙虚に生きてたら、君が今こんなに苦労する必要もなかったのにねぇ」

「為になる話だったけど、結局は私に皮肉を言いたかっただけだよね、今の」

「それは被害妄想だと思うよ?
ちょっと思っただけさ。もし全ての人間が一つの言葉を使っていたのなら、それは一体どんな言語だったのかなってね。
まぁ、何にせよ、人間という生き物が言語を司る種族で良かったよ。言葉も理屈もない混沌とした世の中なんて退屈だと思わないかい?
…あぁ、待てよ。でも、互いが互いに探り合い、牽制し合う、そんな混沌とした状況なんかを見るのは楽しいかもしれないな」



一人楽しそうな様子で話す臨也に水を差すのは気が引けたけれど、そろそろ彼の哲学を聞いているのにも疲れてきたので、話の腰を折る事にした。



「わかった。…とりあえず、現代の世界共通語と言われる英語を、私に教えてくれるかな?」

「…あぁ、そうだったね。小学生でも理解できるくらいにじっくり説明してあげるよ」



私はあんたの妹レベルか…っ!!
との突っ込みは心の奥に封じ込めた。



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