DRRR! !【外伝】

□パーソナル・スペース
2ページ/3ページ




***


約束の19時半。


指定された通りに、新宿駅の1番線付近に向かうと、時間も時間なだけあって人がごった返していた。
休日の新宿駅で、おまけにこの時間。

これから飲み会にでも向かいそうな大学生くらいのグループや、仕事かプライベートか判然としないけれど足早に急ぐ人、待ち合わせ相手を待っているのか壁に寄り掛かる人…

ドコを見ても、人、人、人。
思わず息苦しくさえなってくる。

人混みは苦手。
自分のスペースが確保できないので、なんだか落ち着かない。

気が滅入りそうになりながらも何とか集合場所までやってくると、ホームへ登る階段の下に、私を呼び出した張本人の姿があった。

やけにファーの目立つコートは人混みでも一際目を引く。
無駄に容姿も良いので、携帯を片手に壁に寄り掛かる姿は、それだけでも絵になっていた。

そのまま近付いて行くと、視線は携帯に向けたままで、臨也が口を開いた。



「やあ、良く来たね」



そう言いながら手の中の携帯をポケットに滑り込ませ、やっと彼が顔を上げる。



「ずいぶん疲れてそうだけど、もう人に酔っちゃった?これから電車に乗るのに大丈夫かい?」


「帰って良いなら帰るけど」


「都会育ちなわりには、相変わらず苦手だよねえ、人混みが。さ、行こうか」



そのまま彼はホームへの階段へ足を掛ける。
何処へ行くのかは分からないけれど、私も仕方なく後へ続いた。



満員電車に乗り込むと、人口密度は100%を越えているんじゃないかと思うくらいに人でひしめき合っていた。
席に座る事はもう無理だと諦めて、何とか反対側のドア付近まで辿り着く。



「流石に混んでるねえ。これだけ何人もの他人と同じ空間に押し込まれてると、俺でも息が詰まりそうだよ」



斜め上から掛けられた声の方を見上げると、臨也は窓の外に視線を向けていた。



「趣味の人間観察でもしてれば?」


「それも良いけど、どちらかというと少し離れた所から観察できた方が嬉しいね。ほら、高みの見物って言うだろ?
近づき過ぎると見えなくなる物だってある訳だし。舞台から近すぎる観客席に座ると、ステージ全体が見えにくくなるのと同じだよ。
客席の一番前で役者の演技を楽しむか、少し離れた席からステージ全体を眺めるか。俺なら後者を選ぶね」


「あくまでも傍観者気どりな訳ね。だいたいの事件は自分で起こしてるくせに」


「おや、それは語弊があるんじゃない?確かに俺も色々と知恵を貸してあげたりはするけど、最終的に行動するのは、その人間なんだからさ。
どう転んでくれても構わないよ。楽しませてさえくれればね」




悪趣味。


心の中で呟くと、電車が止まり、扉が開いた。
降りた人も居たけれど、それ以上の人が乗り込んできた。


.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ