DRRR! !【外伝】

□新入部員
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新入部員



来神中学校一年三組



「あの…ちょっと良いかな?」



いつもの様に、臨也が一人で遠巻きにクラスの生徒たちの様子を観察していると、一人の女子生徒が控えめに声を掛けてきた。
視線だけ向けて確認する。
確か廊下側の一番後ろに座っている…



「倉伎さん…だっけ?何か用?」



顔に笑顔を貼り付けて答える。
別段、取り上げる所もない普通の生徒だった。
他の男子生徒達が彼女の事を可愛いと噂しているのを聞いた事もあったが、容姿は別として観察対象としては対して興味もそそられない。
そんな彼女が一体自分に何の用があるのか。



「生物部、創ったんだよね?」

「あぁ、そうだね。それがどうかした?」

「私…入りたいんだけど…っ」



俯いて何とか言葉を紡ぐ様子は、想いを寄せる相手に告白でもしているかのようだ。
まだ創立されて1カ月も経たない、男しか居ない部活に入りたいなんて物好きな人間も居たものだ。
そんな事を考えていると再び少女が口を開いた。



「あの、あなたが副部長なんだよね?
副部長から部長の岸谷くんに言ってもらえないかな」



そこで思い出す。
確か、彼女は新羅と同じ小学校の出身だ。



「良いけど…別に俺からじゃなくても君から頼めばいいんじゃないか?
それに入部は自由だけど」

「お願い…!副部長から言って。私、その…岸谷くんとはうまく話せなくて…
入部届け出せば良いだけかもしれないけど、やっぱり誰かの紹介の方が入りやすいかと思って」



そこでピンと来た。
ああ、あの変わった奴のことが好きなのか。



「わかった。言っておくよ」

「ほんと?ありがとう、副部長!」

「あのさ、確かに俺は副部長って肩書だけど、そうやって呼ぶのはやめてくれるかな?」



まだ入部もしてない奴に呼ばれるのは、渾名でも付けられたみたいで妙な気分だった。



「あ…ごめん。あの、それで副部長」

「俺の言ったこと聞いてた?」



臨也は珍しく自分が少しイラ立っている事に気付く。

天然なのか?それとも、ただ単に馬鹿なのか…

目の前の少女には変わらず笑顔を向けつつも、内心ではさっさと会話を終わらせようと思っていた。



「その、名前。私、あなたの名前覚えてなくて…」



言いづらそうに少女が呟いた。
もうこのクラスが始動して2カ月が経とうと言うのに、まだクラスメイトの名前も覚えていないのか。
内心呆れながらも、その感情を包み隠して臨也は口を開いた。



「折原臨也だよ。まあ、覚えてくれなくても構わないけどさ」



この少女とまともに会話をするのは初めてだったが、少し皮肉をこめて言う。



「申し訳ないけど、そうだね…また忘れちゃったら教えてもらっていい?」

「…は?あのさぁ…いや。いいや、とにかく新羅には言っておいてあげるよ」



珍しく自分のペースを乱される気分だった。

新羅といい、この少女といい、他の小学校の生徒はみんなこんな感じなのか?

これまで通してきた『他人とはつかず離れず』というスタンスを、中学に入ってから、こうも簡単に崩されてしまうとは思ってもみなかった。
全く自分の名前を覚える気などなさそうな少女に何を言っても無駄だと思った臨也は、言いかけた言葉を呑み込んだ。

これ以上、会話を続ける方が面倒だ。

普段、観察対象として周りの人間たちを愛でる彼にとっては珍しく、そんな事を思っていた。



「こんなコト頼んでごめんね。それじゃあ、宜しくお願いします…」



言い残すと、彼女はパタパタと自分の机の方へと小走りに戻って行く。

そういえば、いつも一人で居るな…

友達が出来ないタイプにも見えないが、倉伎姫乃は誰かと一緒に居る事は少ないように思う。

少しずつクラスの女子たちがグループを作り始めていると言うのに、彼女はその輪に加わる事も無く、ただ学校生活を過ごしていた。
周りの女子が声を掛ける事はあるが、彼女が誰かと積極的に会話をしている所は見た事がないかも知れない。

だから、今日話し掛けられたのは、臨也にしてみれば少し意外でもあった。


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