DRRR! !【外伝】

□お大事に。
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「ふっ、パーカーとか着るんだ」


グレーのフード付きパーカーを着た彼は何だか何時もより少し幼く見える。
顔立ちは整っているけれど、確かに少し童顔っぽいからな。
小さく噴き出した私に僅かに眉をひそめながら臨也が口を開いた。



「…なに笑ってるの?」

「あ、なんか思いっきり部屋着だったから。そういう格好もするんだな、って思って」

「あのさ…君は他所行きの格好で寝込むのかい?」



少し息苦しそうに臨也が呟いた。
どうやら本当に寝込んでいたらしい。



「…具合悪そうだね?」

「ああ、見ての通りね。それじゃ、ご苦労さま」



そう言って私の手から買い物袋を取ろうと、彼が腕を伸ばしてきた。



「…?ああ、幾らだった?代金なら後で払うからさ」



袋を離さない私に、再び彼が口を開いた。
本当、どうなったって良いんだけどさ、臨也なんか…。
けど、目に見えて弱っている人間を放っておくのは、さすがに気が引ける。



「何か作る気だったんでしょ?…台所、貸して」

「へえ…暇だね、君も」

「素直にありがとうって言えないの?ほんと、可愛げ無い」



私の言葉に自嘲気味に小さく笑ってから、臨也はソファまで歩いて行き、ドサッと腰を下ろした。

たら、卵、ねぎ、本ダシ…
言われた通りに買ってきた食材を台所まで運び、眺める。
これで何作る気だったの?



「あ…それ、雑炊ね」



私の心中を知ってか知らずか、ソファに座る臨也がこちらに向けて声を掛けた。
その声は少し掠れていて、大きな声を出すのは辛そうだ。



「なるほど…雑炊ね。確かにカゼの時には良いかもね」

「食べられれば構わないからさ、適当に作ってくれる?」

「適当に、ね」



何か失礼な言い草だ。
だったらお茶漬けでも食べてろよ、と内心で悪態を吐いた。

材料からだいたい調理法は見当がつく。
こう見えても、中学校に上がる前から自炊してきたので、大抵の料理なら作れた。

よし、ぜったい美味しいって言わせてやる。

下ろしていた髪を一つに結って、さっそく雑炊作りを開始した。
男の一人暮らしにしては、台所にはわりと道具が揃っているし、広さもそれなりにあるので作業はしやすい。
というか、私の家より使い勝手が良くて羨ましい。…金持ちめ。


問題無く調理が終わり、鍋から食器に雑炊をよそると、何とも身体に良さそうな匂いが漂ってくる。
タラのダシも効いていて美味しそうだ。

すっかり大人しくなった臨也が寝ているであろうソファの方まで料理を運ぶと、案の定、彼は少しうずくまる様にしてソファの上に倒れていた。



「…食べれる?ていうか、起きられる?」

「ん…ああ、出来た?」



何とか起き上がった彼は、ダルそうにソファの背もたれに体を預ける様にして座りなおした。
器を差し出すと、受け取った臨也がそっと雑炊の入ったソレを自分の顔の先に近づけた。

知らない人間からエサをもらった犬や猫じゃないんだから、そんなに警戒しなくても…。

突っ込みたくもなったけれど、黙って見守る事にする。
ゆっくり一口目を飲み込み終えたらしい臨也が小さく呟いた。



「美味しいよ…味良く分からないけどさ」

「ははは、だろうね。そんだけ鼻詰まってたらね!」



微妙に失礼な事をほざく臨也の隣に座り、私も自分用によそってきた雑炊に手を付ける。
うん。カゼで繊細な味を理解できない奴にはもったいないくらい良い味出てると思うけど。



「冗談だよ。相変わらず、料理だけは取り柄みたいだねえ」

「だけは、って何よ?」



少し睨むと、臨也は微笑んだ後、再び食事に戻った。
あんまり言い返して来ない辺り、やっぱり体調が悪いんだろう。
いつも多弁な人間の口数が少ないのは、一緒に居てすごく違和感がある。

猫舌の私には、まだ熱すぎる雑炊を冷ますため、ひとまず器をテーブルに置いたけれど、静か過ぎて落ち着かない。
間を持たすために、保健室から持ち帰って来たノートパソコンをバックから取り出し、電源を入れた。
パソコンを膝の上に乗せ、休み中にやろうと思っていた作業に取り掛かる。



「そう言えば、君は猫舌だったね。仕事かい?保健室の先生ってもっと暇な仕事かと思ったよ」



こちらには視線を向けないまま、臨也が口を開いた。



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