DRRR! !【外伝】

□お大事に。
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「さぁて、今週も一週間お疲れさま!私」


一つ伸びをしてから保健室を出て、扉を施錠する。
鍵を職員室に返して、校舎の出口へと向かうと、部活中の生徒たちの元気な掛け声が校庭に響いていた。

練習試合中のサッカー部や走り込み中の野球部を眺めながら校門へ向かう。
それまでに何人かの生徒から「先生、さよならー」と声を掛けられた。

平和だなー、来良は。

自分の学生時代を思い出した私は、思わず苦笑した。
来神は荒れに荒れていたからな。
同じ学年にも問題児は居たけれど、学校全体が今とは打って変って何処か殺伐とした雰囲気だった。

今日は金曜だけれど、特に予定の無い私は真っすぐに池袋駅へ向かう。
帰宅中の人々で混み合う山手線に乗りこむと、携帯にメールが一通届いた。



「…暗号?なにこれ」




From/折原臨也
――――――――

真鱈、卵、ねぎ、本ダシ


よろしく。

――――――――



メールの文面に件名は無く、本文は食料品と思われる単語と、「よろしく。」という一言だけ。
良く解らない臨也からのメールを眺めていると、ちょうど電車が新宿駅に停車した。

どちらにせよ、私は帰宅する為に新宿で中央線に乗り換えなければならないので、電車を降りた。
ホームを歩きながらメールの送信者に電話を掛ける。
このまま無視して帰ろうかとも思ったけれど、後で面倒な事になっても困るので、一応連絡を取っておく事にした。


三回ほど呼び出し音が鳴った所で、プルルルという電話特有の音が止んだ。
通話ボタンが押されたはずなのに話し始めない相手に代わって、私が先に口を開いた。



「さっきのメール、意味分かんないんだけど」



開口一番に私がそう言うと、電話の向こうからは小さな咳ばらいが一つ聞こえた。



『…アナウンスが聞こえるって事は、今新宿駅だね』

「臨也…?」



彼は勿論、私が新宿で乗り換えるのを知っているので、ホームに流れるアナウンスから、そう判断したのだろう。
私が引っ掛かったのはそこでは無くて、電話から聞こえる彼の声が何時もと少し違う気がしたから。
何て言うか、ちょっと低い?



『そのまま乗り替えないで、さっきメールで送った物を買って来て、くれるかな?』



途中で一呼吸おいてから、臨也が続けた。



「え、やだ。なんで、わざわざフライデーナイトにあなたのお使いしてあげなきゃいけないの?」

『そのフライデーナイトに誰とも予定の無い人間が何を言ってるのかな。
どうせ、真っすぐ帰宅中なんだろ?じゃ、頼んだよ』



そう告げると、彼は一方的に電話を切った。
もちろんイラっときたけれど、私は先程気になった違和感の正体に気付いた。

あ、なんか声が鼻声っぽいんだ。
風邪でも引いたのか?

ちょっと具合が悪いからって人に買い物頼むとか…
ほんと勝手だな、アイツ。
確かに外は肌寒いかも知れないけど。
人の事、何だと思ってんの!?



…と言いつつも大人しく買い物して来てあげちゃう私が悪いのか?
渋々、言いつけられた買い物を済ませて奴のマンションまで届けに来てやった。
本当、自分のお人好しさには常々嫌気がさすよ。

インターホンを押すと、室内に響いているであろうピンポーンという音が私の耳にも聞こえた。
少しして、ガチャと錠が外れる音がして、扉が開く。



「…やあ、相変わらず人が良いねえ」

「あのねぇ…」



文句の一つや二つ言ってやろうかと思っていたけれど、私は言葉を飲み込んでいた。

思ったよりも具合の悪そうな臨也は、少し扉に寄りかかるようにして立っている。
艶やかな黒髪の先が少しハネているのは、今まで寝込んでいたからだろうか。

それに何より、この高そうなマンションには少し不釣り合いなくらいにラフな格好の彼の姿が新鮮だった。


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