DRRR! !【外伝】
□やわらかな午後の光と
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なにも切らなくても良いじゃない…。
ちょっとショックを受けながら、パフェを諦めようかと思い始める。
友達、もっと作っておくべきだった。
一歩踏み出そうかとした時、バックにしまった携帯が震えた。
誰だろ?
相手を確認しないままに携帯を耳に当てた。
「はい」
『あ、わりい。携帯なんてめったに使わねえからさ、その、ボタン間違った』
「シズちゃん?」
『…何で疑問形なんだよ。掛けて来たのはお前じゃねえか』
良かった。
着信拒否られたのかと思った…!
それにしても通話ボタン間違えちゃうとか、ほんと携帯使わないんだな。
思えば、シズちゃんとは偶然会って話す事がほとんどで、こうして電話で話すのは何だか新鮮な感じだ。
『何か用があったんだろ?』
「あ、うん。私、友達少ないからさ」
『友達?まあ、俺もそんなもんは多くねえけどよ』
「でもシズちゃんの事は私の数少ない友人の一人だと思ってるよ?」
『…何だよ、急に。けど、お前がそうだっつーんなら良いんじゃねえか』
「迷惑?」
『んな事言ってねえだろうが。友達とか、そういうの考えた事ねえけどよ、俺は迷惑だとか思った事ねえよ、お前のこと。
…つうか、なんか照れるだろ。なに言わせんだ、バカ』
「はは、ごめんごめん。ところで、友達として頼みたい事があるんだけど…」
***
「で、これか?その開店記念でパフェがどうとかやってる店はよ」
「イエス!良かった、シズちゃんが来てくれて。血迷って臨也にまでメールしちゃったよ」
「あぁ?…ノミ蟲がなんだって?」
「…ごめん、何でも無い」
シズちゃんの前で臨也の話は禁物だった。
慌てて口をつぐんだ私の頭を、ポンと撫でながらシズちゃんが呟く。
「お前に色々と事情があってノミ蟲と関わってるのは仕方ねえかもしれないけどよ、いや、本当は関わらないに越した事はねえが。
いいか?その、なんだ…こういう時は俺を呼べ。時間なら、作ってやるからよ」
「…シズちゃん、ありがとう」
ごめん。忘れてたなんて言えない…。
バーテン服の彼とまだ明るい時間帯のカフェに入るのは何だか変な感じがした。
ほら、バーテンさんって夜なイメージだし。
天気も晴れなのでテラス席に座ると、穏やかな太陽の光が心地良かった。
この席ならシズちゃんも煙草が吸えるし。
けっこう、この時間帯だと室内席は禁煙のお店が多いからな。
サングラスを外してメニューを眺めるシズちゃんは思いのほか真剣な眼差しだ。
甘党だし、割とパフェとか好きだったりするかな、なんて考えていると、ふいに顔を上げたシズちゃんと目が合った。
「決まったか?」
「あっ、うん。シズちゃんは?」
「ああ、俺はコレ」
シズちゃんが指差したのはストロベリーパフェ。
何とも可愛らしいチョイスだ。
私もイチゴにしようか迷っていたけれど、シズちゃんがイチゴを選んだのでチョコレートパフェをオーダーした。
「ファミレスとかでも美味しいけどさ、やっぱり、こういうお店のパフェって手が込んでて良いよね」
「そうなのか?」
私の言葉に、煙草に火を付けようとしていたシズちゃんが視線だけこちらに向けて答えた。
「え、そうだよ。フルーツとか沢山使ってあるし、下の方もコーンフレークだけとかじゃないし。あんまり、こういうお店でパフェ食べないの?」
「…男だけで入るか?こういう店」
「うーん、入りにくいかもね」
客席を見渡すと女性客が多く、男の人が居ても彼女連れしか見当たらない。
煙草の煙をくゆらせながら店の前の通りを眺めていたシズちゃんが呟くように口を開いた。
「でも、たまには良いな。こういう所も。
池袋だってのに、わりと静かだし」
確かに、店前の通りに人通りはあるものの、駅前の様にごった返していたりせず、人の流れもゆるやかだ。
「日差しも気持ち良いし、落ち着くね」
「ああ。そうだな」
煙草の火を消しながら、シズちゃんが小さく笑う。
ちょうどそこに注文したパフェが運ばれてきた。
ボリュームもさることながら、果物もたっぷり使われていて、美味しそう。
「わぁー…すごい。良かったぁ、途中で諦めなくて。シズちゃん、ありがとうっ」
「おう、良かったな。にしても、ほんと子供みたいにはしゃぐよな、お前」
「ちょっと!バカにしてるでしょ?」
「してねえよ」
「だって笑ってる」
「昔っから変わらねえなって思っただけだよ。ほら、食わねえなら俺がもらうぞ」
「あ、ちょっと、ひどっ」
そう言いながら、私がまだ手を付けていないパフェからアイスをすくっていくシズちゃん。
「ああ、チョコも美味いな」
「まったく、油断もスキもない…」
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