DRRR! !【外伝】
□やわらかな午後の光と
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やわらかな午後の光と
「甘い物が食べたい、甘い物が食べたい…」
なぜに、こんなにも糖分を欲しているかと言うと、今日は新入生の身体測定があったから。
夏は涼しく冬は暖かい保健室。
普段、私は校内における楽園のような場所で、ケガ人や病人さえなければ一日中のんびりまったり過ごしている。
そんな保険医の年間行事における唯一の活躍の場。
それが、身体測定。
「そうだなぁ…パフェとか食べたい」
帰宅途中、池袋の街を彷徨いながら辺りを見回していると、新しく小さなカフェがオープンしているのを発見した。
「へえ、可愛いお店。あっ…しかも、うわぁ、ぜったい美味しいよアレ…」
独り言を言いながら店の中をジロジロ見る私はさぞかし怪しいだろう。
けれど、オープンテラスから見える店内ではカップルや女の子のグループが美味しそうなパフェを仲むつまじく食べている。
それにしても、どうしてこう人が食べたいと思っている時に限って、こうやって皆が皆パフェを食べてるかなぁ…
なに?パフェブームでも来てるの…?
そんな事を思っていると、店先に置いてあるメニューの書かれた黒板の文字が、私の目に飛び込んできた。
「ああ、なるほど」
そこには『オープン記念!ペア限定でパフェをサービス中』の文字。
だから皆さん揃いもそろってパフェを食べていらっしゃるのか。
それにしても…ペア限定って。友達の少ない私にとっては難易度の高い条件だ。
何気なく携帯を取り出して、メールの着信履歴を見てみる。
一番上には、今日の昼休みに連絡を取った相手の名前があった。
「セルティ…はダメか」
セルティからのメールは、新羅のお得意様からの差し入れで美味しいお肉を沢山もらったとかで、週末にでも夕ご飯を食べにおいでよ、とのお誘いだった。
けれど、セルティは食事出来ないし、この時間帯のカフェに呼び出すのは目立ちすぎる。
…ダメだ。
セルティLOVEな新羅は呼んでも来なそうだし。
「次はー……却下」
セルティの名前の下には『折原臨也』の名前が並んでいる。
昨日の夜、仕事の件で何通かやりとりした。
「あとは門田君か狩沢さんか…遊馬崎くんは二人で会うほど仲良くないし…うーん」
でも、門田君も狩沢さんも、この時間とか空いて無さそうだな。
そして悩んだ挙句、仕方なく二番目に名前があった人物にメールをしたため送信ボタンを押した。
「ニート同然だもんな、あの人」
失礼な事を呟いていると、さっそく携帯が着信を知らせるようにブルブルと振動しだした。
しかもメールではなく音声着信だ。
「あ、もしもし?」
『やあ、珍しいね。君から連絡取ってくるなんてさ。何か用かい?』
臨也は外出中のようで、電話の向こうからは街の喧騒のような音が聞こえて来る。
「いま外なの?」
『そうだよ。君は俺の仕事はデスクワークが多いとでも思ってるのかな?これでもけっこう忙しくあちこち出向いてるんだけどね。
街に居る色んな人間を眺めるだけでも興味深いし…まあ、君に言っても解らないだろうけどさ』
「ああ、うん、そうだね」
イエスかノーでも回答できる私の問いに、長々と答える臨也に対し、適当に相槌を返す。
勢いでメールを送ってみたけど、この人を誘うのはいろいろと面倒そうだ。
まず、何て言って呼びだす?
一緒にパフェ食べよー♪とか?…ないよね。
けれど、どうしても今日、この店のパフェが食べたい私は、めげずに会話を続けることにした。
「ところでメール見た?」
『あれをメールと呼べるなら読んだよ。無線呼び出しじゃないんだからさ、件名に一言だけ入れるのは止めて欲しいね』
私のメールが気にくわなかったらしい。
確かに件名に一言「いま暇?」って入れたのは私だけれども。
臨也に可愛いデコメとか送る意味無いし。
『聞いてるかい?君がシズちゃんみたいに機械音痴ならともかくさ』
「あ、シズちゃん…」
そこで私は思い出す。
そうだ!
池袋に居て、今の時間なら空いてそうで甘党の友だちが居たじゃない。
彼とはめったに携帯を介して連絡を取らないのですっかり忘れていた。
「ありがと、臨也。もう良いや。じゃ」
『は?ちょっと、ま…』
臨也が何か喋っていたけど、構わずに電話を切った。
そして、携帯のアドレスに入っている平和島静雄の名前を呼び出す。
「出るかな…ていうか携帯持ち歩いてるかな」
発信ボタンを押すと、呼び出し中のコール音が鳴る。
一応、電源は入っているようだ。
そして一瞬音が途切れて、出るかなと思った瞬間。
プツッ…ツーツーツー…
「っ、切られた!?」
タイミングが悪かったのだろうか?
携帯からは未だに虚しく電子音が流れてくる。
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