DRRR! !【外伝】

□新宿でーと
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新宿でーと



「ねえ、恥ずかしいから降りてよ」


私も小さかった頃、よく車道と歩道を隔てる縁石の上を歩いた記憶がある。
あれって、何故か上を歩きたくなるんだよね。
目線が高くなって、世界が少しだけ広くなったような気がして。
たまに、そんな風に縁石の上を歩く子供を見かけるけど、危なっかしくも可愛らしい光景だ。

けれど、すっかり成人した男性が同じ行動をするのは如何なものかと思う訳です。

ぴょんぴょんという効果音が付きそうなほど足取り軽やかに縁石の上を進む臨也に目をやると、手元の携帯から目線を外した彼と目があった。



「何か言ったかい?」

「隣を歩く私の身にもなってくれる?恥ずかしいんだけど」



今日は土曜日。
天気も良かったので久々に外出でもしようかと思い、新宿を訪れた。
特に目的もなく、ぶらぶらとウィンドウショッピングをして、それなりに休日を満喫できた。
そろそろ帰ろうかと思っている所で偶然に彼と鉢合わせ、今に至る。

当然、最初は無視して通り過ぎようと思ったけれど、向こうから話しかけられれば、答えるしかない。
そこで無視できるくらいのスルースキルを身につける事を、来年の抱負にしたいと思います。



「恥ずかしい?だいじょぶ、だいじょぶ。人間って君が思う以上に希薄だよ。これだけ周りに人が居ようと、俺や、ましてや君に眼を向けてる奴なんて皆無に等しいと思うけどね」

「そういう問題じゃないの」

「そういう問題だよ。仮に見ていても、どうこうする訳じゃない。例えば、今、君が急な発作か何かで倒れたとする。駆け寄って来て、救急車を呼んだり、応急処置をしようとする人間が何人いるかな?
大抵の人間は間違いなく通り過ぎるだろうね。もしくは興味本位で野次馬の一群に加わるか。そんな様子を少し離れた所から観察するのも悪くないかもしれないけど…。
人ってさ、自分に関係ない事はどうでも良いんだよ。目の前で人が倒れようが死のうが、それが知り合いでもない限り、立ち止まりさえしない奴もいる。違うかい?」



いまだに縁石の上を歩きながら、理屈をこねる臨也に対して、思わず小さな溜息がもれた。
でも、あながち彼の理論は間違っていない。

確かに、自分に関係のない他人が何をしていようと、気に留める人間は少ないと思う。
それこそ、臨也の様に人間観察とかいう、ふざけた趣味を持った奴でなければ…



「じゃあ、言い方を変えるね。危ないから降りなよ」

「やれやれ。心にもない台詞を良く言えたね」



少し肩をすくめる様にして言った後、臨也はぴょんっと縁石から飛び降りた。
ここまで続いていた縁石が、ちょうど其処で途切れたからだ。



「もう登らないでよ?」



青になった横断歩道を渡りながら視線だけ向けて言うと、さっきよりは目線が近くなった彼が少しこちらに顔を向けながら口を開いた。



「俺、好きだからさ。高い所」

「子供かあんたは…。あ、バカと何とかは高い所が好きって言う言葉があるくらいだもんね」

「言うねえ。ちなみにバカと煙は、だね」



そう言いながら、奴は再び足元に現れた縁石の上に一歩を乗せた。

もう何を言っても無駄そうだ。
仕方ない、作戦変更。

臨也の着ているコートの裾のフワフワとしたファーを掴むと、立ち止まった彼がこちらを見下ろしてきた。



「お腹空いた。夕ご飯食べたい」

「ああ、そういえば、そんな時間だね。何が良いの?」



携帯で時刻を確認してから、彼がやっと縁石から降りた。
よし、作戦成功。



「んー、何でもいいよ。あんまり一緒に居たくないからマックとかケンタとか、すぐ出てくるとこの方が良いかな」

「困ったなあ。悪いけど、ジャンクフードは嫌いなんだよねえ。ああ、あそこにしよう。着いておいで」



私の嫌みなど無視して、勝手に人の腕を掴んだ臨也は足早に歩き出した。


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