DRRR! !【連載】
□26×ペテン師
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26×ペテン師
「で、やっぱりココなんだ」
「寿司ラブ、俺は大トロが好き」
「…それは知ってるよ」
「ああ、君は生の海鮮ダメなんだっけ?
まあ、いつも通りに卵の握りでも食べてなよ」
やっぱりココだと思ったけど、案の定いつもの店だった。
今、私たちが居るのは露西亜寿司。
今日はちょうど半額セールをやっているらしい。
さっき全力疾走をしたので正直、お腹が減っている。
普通、相手が生の海鮮が苦手だと知っていたら他の店を選ぶなりしてくれても良さそうなものだけど。
まあ、初めから彼にそんな期待はしていなかった。
沈黙。
注文を終えて料理を待つ間、私としては特に臨也と話す事もないので、彼が口を開かなければ必然的に会話も途絶えた。
テーブルの上に頬杖をついて、グラスの中に浮かんだ氷を眺めていると、自然と意識も遠のいて来る。
眠い。
「ずいぶんと疲れてそうだけど、昨日夜更かしでもしたのかい?」
たった今まで携帯の画面と向き合っていた臨也に声を掛けられ、ふと我に返る。
否、彼は私に言葉を掛けただけで未だに視線は手元に落とされたままだ。
「…まあ、ちょっとね」
「濁すねー。何してたの?昨日」
そこでやっと目が合う。
珍しい、と思った。
人の事を詮索したり、やたらと調べ上げたり…
臨也はいつもそういった事はしているけれど、今みたいに何でもない日常的な事柄に関心を持たれるのは意外だった。
…何か企んでる?
私は昨日、彼が興味を持つような事をしただろうか。
「そう勘繰らないでよ。今の質問にたいした意味は無いからさ」
不信感が表情に出ていたようだ。
何て答えようか思案していると再び彼が口を開いた。
「今日は仕事の話をしに来た訳でも無いんだし、たまには意味のない世間話に花を咲かせようじゃない」
「世間話、ね。
…別に、ちょっと家で趣味に没頭してただけよ」
「君の趣味って?へえ、まだ仕事以外でもクラッキングしてるんだ。
よほど退屈してたんだねえ。それともストレスでも溜まってたのかい?」
世間話と言いながら、これではまるで尋問だ。
「…だから嫌だったのに」
「ん?なにが?」
思わず呟いた言葉は、しっかりと届いていたようだ。
私が嫌がっているのに気付きながら、尚も楽しそうな表情を浮かべたままの彼に、私は小さく溜息を吐いた。
「だけど、俺も興味があるね。君が、昨日クラッキングしたサイトにさぁ。
そんなに面白そうだったのかな?」
臨也は未だにこの話題から離れるつもりがないらしい。
「ただ、ちょっと生徒に勧められただけだよ。そこで偶然見つけたページでパスクラックしようとしたら割としっかりシステムが組まれててさ。
特に難解なセキュリティではなかったけど。ちょっと退屈しのぎにやってみただけ」
それでも夢中になっていたのは事実。
仕事でクラッキングする作業も嫌いではないけれど、どこか事務的にこなしていたから。
純粋に楽しめたのは久しぶりだったかも。
「あ、でも、あのチャットルームの管理者はけっこう手慣れてる感じだったかなぁ。つい楽しくなっちゃって、いつもならクラックした後は飽きちゃうんだけど、昨日は少し遊んじゃったんだよね。
そうしたら…あ、もう良いよ、この話は」
つい饒舌になってしまった。
好きなモノの話をする時は誰しもつい熱く語ってしまうもの。
相手が臨也だという事を忘れていた。
「やっと笑ったね」
「…え?」
「今日だよ。今日俺と会ってから、いま君は初めて笑いました。
さて、嘘でしょうか、ホントでしょうか」
「からかわないで」
「楽しめたみたいで何よりだよ。
仕事に支障が出ない程度になら趣味の方にも没頭してくれて構わないさ」
一方的に会話を締めくくると、彼は再び手元の携帯に視線を落とした。
先程とは違う機種だ。
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