DRRR! !【連載】

□21×入室
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21×入室 



「よう、今帰りか?」



そこには、相変わらずのバーテン服を着込んだシズちゃんの姿があった。



「うん。学校の帰りに門田くんたちに会ってさ、ちょっと話し込んでたんだ」

「そうか…たく、今日もやらかしちまった。俺は暴力が嫌いなのによ」



言い終わると、シズちゃんは吸い込んだ煙草の煙を溜息でも吐くかのように吐き出した。



「聞こえたよ。また何か投げてたでしょ?」

「…自販機だよ」



やっぱり。
彼がこれまでに破壊した自販機は一体何台になるだろう…。
考えようとしたけれどキリが無さそうだったので止めた。



「トムさんと仕事中だったんだけどよ、相手のタチが悪くてな。ゴチャゴチャゴチャゴチャうるせえから、つい、頭にきちまった」



どうやら相手は臨也ではなかったらしい。



「そうなんだ。あ、じゃあ今も仕事中?」

「ああ、まあな。次の所に回収行く前に何か飲み物でも飲んで頭冷やせって、トムさんに言われてさ」



トムさんとは、シズちゃんの中学の時の先輩で現在は仕事の上司でもある人だ。
言われて見れば、シズちゃんの手には自販機で買ったらしい飲み物が2本持たれていた。
きっと一本はトムさんの分だろう。



「あ、駅行くんだろ?送ってやるよ。俺も駅前でトムさんと待ち合わせしてっからさ」

「ほんと?ありがと」

「つうか、なんか風邪っぽいな?声、いつもと違う気がすんだけど」



自分では、そんなに鼻声になっていないつもりでも、人が聞くと何時もと違うらしい。
紀田君にも言われたし。



「ちょっと昨日から風邪ひいててさ。ああ、でも元気だから大丈夫だよ。熱も下がったし」

「そうか?なら良いけどよ。お前、小学校の時はどんなに具合悪くても早退しなかったよな。一回、教室で倒れた時あっただろ」

「…そう、だっけ?」



まあ、そんな事もあったような気がする。
確か、あの頃は家に居るのが苦痛で、なるべく学校で過ごしていた。



「あ、その時に保健室まで運んでくれたのがシズちゃんだったよね」

「何でそんなトコだけ覚えてんだよ」



どこか照れくさそうに私から目を逸らしたシズちゃんに苦笑していると、ちょうど駅前に到着した所だった。



「じゃ、送ってくれてありがとね」

「おう。風邪、早く治せよ」



そう言うと、シズちゃんはトムさんとの待ち合わせらしき方向へと歩み出した。




***



「ふーん、なるほどね」



帰宅してからシャワーを浴びて、すぐにでも寝れる状態になった私は、ベッドの上に持ってきたノートパソコンとにらめっこをしている所だ。

パスワード制限の付けられたダラーズのサイト内を軽く見た後、適当にネットサーフィンしていると、チャットルームを見つけた。
しかも、このチャットルームもきちんとパスをクリアしていないと、クリックしてそのまま入室とはいかないようだった。

きっと、このチャットルームの管理者は相当パソコンの扱いに慣れている奴と見た。
さっきから何度か簡単な手法で入室を試みているけど画面にはエラーの文字が出るだけだった。



「あ…何か、楽しくなって来ちゃった」



ちょっと本気出してみるか。
ワクワクする気持ちを抑え、落ち着いて管理プログラムに介入していく。
一部変更して再構築し直せば…



「よーし、完璧」



私の声とともに、『ピコン』とPCから音が鳴った。
画面を見るとチャットルームの入室画面にページが切り替わっている。

いつもなら、こうやってクラッキングした後のページに興味は無い。
中のデータが見たくてやっていると言うよりは、入り込むまでの過程が好きだから、その作業が終わってしまえば飽きてしまう。
ジグソーパズルの最後の1ピースをはめた時点で、もうそのパズルでやる事が無くなってしまう感覚に似ている。
でも、今日は少し違った。



「現在、入室者は3名…か」



チャットなんて久しぶり。

どんな人達が集まってるんだろう…それは純粋な興味だった。
久々に趣味でクラッキングをしたせいか、少しテンションが上がっているらしい。
私がこんな風に何かに興味を抱くのは自分でも珍しいと思う。

普通にHNを設定して入室するか、きちんとログインしないでROMる、つまり何も書き込まずにチャットの内容だけ盗み見るか…
少し考えた挙句、前者を選んだ。



「さーて、皆さん、どんなお話で盛り上がっているのかなぁ」



HNを設定し、入室ボタンをクリックした。



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