DRRR! !【連載】

□19×ダラーズ
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「今日も会いに来たぜ、愛しのマイレディーっ!」

「っ!?きゃ…、何だ、君か」



時間も忘れてパソコンと向き合っていると、前触れもなく、ガラッっと勢い良く保健室の扉が開かれた。



「あれ、なんか仕事中だった?あ、でも今のちょっとビックリしてた姫乃ちゃんも俺的には可愛かったから、むしろ…」

「紀田君、ノックくらいしなよ…。あの、すみません、いつも騒がしくて」



夢中になっていたので、もう放課後だという事に気付かなかった。
部屋の入口には何時ものように遊びに来た紀田君と、彼の代わりに謝罪する帝人くんの姿がある。



「あ、ううん、大丈夫。ちょっと驚いただけだから」



二人に笑顔を向けつつ、後ろ手でマウスを操作して作業中のブラウザを閉じる。



「で、今日は何か用?」

「そりゃ、もちろんデートのお誘いに決まってるっしょ!」

「お生憎さま。悪いけど、今日は真っすぐ帰るつもりだから」

「ん…あれ、姫乃ちゃん鼻声っぽい?」

「うん、まあ。昨日からカゼ気味でね。だから、デートはまた今度」

「えっ、いいの!?よっしゃあっ!ほら、聞いただろ帝人!女ってのは押しに弱いんだ。この俺を見習ってお前も頑張れよ」



こう言えば今日は大人しく帰るだろう。
内心、生徒とデートなどするつもりは無かったけれど、紀田くんが予想外に喜んでいるので少し良心が痛む。



「頑張るって…ナンパを?」



紀田くんに話を振られた帝人くんが口を開いた。



「他に何があるんだ?」

「はあ…。あの倉伎先生、すぐに紀田くん連れて帰りますね」



少し呆れたように溜息を吐いてから、帝人くんが紀田くんの肩をポンと叩く。
そのまま紀田くんを連れて保健室の扉に手を掛ける帝人くんの後姿を見ていたら、臨也が帝人くんに接触しようとしていた事を思い出した。



「あ、帝人くん」

「何ですか?」



とっさに声を掛けていた。
こちらに顔を向けた帝人くんと目が合ってから、思う。
一体、何て声を掛けるつもり?
タチの悪い情報屋があなたに興味を持っているから気を付けてって?



「あ…あの、紀田くんから聞いたんだけど、帝人くん、上京してきたばっかりなんだよね?」

「はい、そんなんです、実は。あ、だから僕、池袋のこととか全然分からなくて。いま紀田くんに色々教えてもらってる所なんです」



考えた挙句、何とか話を振ると、苦笑しながら帝人くんが答えてくれた。
意外と話題を提供すれば話に乗って来てくれるタイプみたいだ。
まあ、気は弱そうだけど、気遣いできそうだし、最初は人見知りしちゃうけど慣れてくれば…そこで思考を元に戻した。
また悪い癖で分析し始めてしまった。



「そうなんだ。紀田くん詳しそうだもんね」

「そうそう!俺に任せとけば帝人も立派な池袋の住人になれっからさ」



紀田くんが口を挟んだ。



「それは心強いね。ところで、帝人くん。池袋は楽しい?」

「はいっ。まだ越してきたばかりですけど、今まで住んでいた世界が嘘みたいに、ここには新しい事が溢れていて…毎日が、すごく楽しいです!」



小さな子が新しい玩具でも手にしたかのように、キラキラと目を輝かせながら帝人くんが答えた。



「そっか」



なるほど、好奇心旺盛ね…臨也の言葉を思い出す。



「ようこそ池袋へ。せっかく若いんだから思いっきり楽しんじゃいなさい。…でも、気を付けるんだよ?興味本位で危ない事にまで手を出さないように」

「はい。分かりました」



素直に返事をする帝人くん。
なんか、柄にもなく教員っぽい台詞を吐いてしまった。



「あ、ごめんね、説教くさくて。さっきココに来てた子がさ、カラーギャングに入ったなんて言うから。
ダラーズって言ったかな?二人とも、面白そうだからって、そんなの入っちゃ駄目だからね」



何となく言った言葉だったけれど、一瞬、二人の表情が硬くなったように感じたのは気のせいだろうか。



「し、心配し過ぎだって。俺達もガキじゃないんだからさ。なあ、帝人?」

「えっ?あ、うん、そうだよね。大丈夫です。ありがとうございます、倉伎先生」



その場を取りつくろう様な二人の様子が気になったけれど、まあ…良いか。
仮に、この子たちがカラーギャングだとかの組織に入っていたとしても私には関係のない事だし。
ただ、私の目の届く範囲で事件やらに巻き込まれる姿を見るのは、後味が悪いので止めてほしいとは思う。



「それじゃあ、私ももう帰るから。二人とも早く下校しなさい」

「はーい。じゃね、姫乃ちゃん。よし、帝人!ナンパ行こーぜ」

「え、本当に行くの!?…あ、あの、ありがとうございました、倉伎先生!お大事にしてください」



さっきとは逆に紀田くんに肩を組まれて引きずられるように連れて行かれる帝人くん。
そんな二人の姿を、軽く手を振って笑顔で見送った。


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